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龍のシカバネ、それに月
5

「……痛っ…」

 摘んだ指先を交互にすり合わせ、どんどん敏感になってしまう。
 しばらくすると、二本の指で擦られて、もみくちゃにされたそこは僕から見ても赤く色づいて、ぴんと立ち上がるようになっていた。
 誰も触れていなくても、じんじんと定期的な鼓動を感じるほどに。

「やっ…痛っぃ…」

 体をよじって自分から見えないようにしようとするも、背後からまた真っ直ぐに引き上げられてしまう。
 真っ赤に色づいた2つの胸の飾り。
 背後で耳を撫でていた龍も手を伸ばし、真ん中の龍が触れていない側の赤い実を、根元からきゅうっとつまみ上げた。

「っん…やっ、…っ!」

 もう片方は口の中に包み込まれて、中でとろけた肉に翻弄されている。

「少しは気持ち良くなってきたかな……?」

 朋哉さんが、僕の横に膝をついて覗きこんできたのに、大きく首を横に振った。
 小さな瓶にとろりと揺れる液体。
 下腹にかけられるのかと思って身を縮めていたら、それを匙へ移して、僕の口元に押しつけてきた。

「飲んで。初めてが痛いだけじゃ嫌でしょ? 時間もないことだし、早く使える状態になってくれないと」

 大丈夫、甘いから。
 そんなことを言いながら押しつけてくる匙から顔を背けて、逃れた。

「聞き分けのない子……頑固なのは父親似かな」

 反論したかったけど、口を開けると匙を入れられそうで。
 ぷいと横を向いたまま無視していたら、胸元にいた龍が朋哉さんの指示で僕の頭を仰向けに固定した。

「や、嫌だっ…」

 そんな得体の知れないもの、飲みたくない。
 朋哉さんは匙の中身を自らの口に入れると、即唇を合わせてきた。
 柔らかな感触と熱。
 変に冷たさを持った甘い液体が、唇伝いに流し込まれる。

(吐きだしてしまえば良い)

 朋哉さんが離れた瞬間を狙って吐きだしてしまえば良い、こんなもの。
 ぎゅっと目を瞑って、そんなことを考えていると、じっとしている朋哉さんに気がついた。

(なんでいつまでも唇が合わさったまま……?)

 ゆっくりと目を開けると、唇を重ねたまま、濃い黒のまつげに縁取られた朋哉さんの目が、クスッと細められた。
 わずかに開いた口の端から「早う、飲め」とくぐもった声がして。
 ぞくりと背筋が粟立った。

(怖い――)

 全身が凍りつくような恐怖心を生んだ笑みは消え、確かめるかのように差し入れられた舌が口内を動いた。
 舌先が触れた場所から痺れるような感覚が湧き上がる。
 執拗に口腔を撫でられて、ついに薬を嚥下してしまった。

「っ…は…」

「……良い子」

 離された唇がにんまり笑って呟く。
 やっぱりこの人は朋哉さんじゃない。
 朋哉さんじゃなければ、いったい何なのか? 
 北龍が執心しているのは、朋哉さんじゃなくて、この人のほうだとしたら? 


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