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龍のシカバネ、それに月
4

「北龍を撃退する。陣形を守り、合図を聞け。
――出立」






 嫌な匂いがする。
 知っている匂い、これは香だ。
 今朝、山茶花の几帳のある部屋で朋哉さんが焚いていた、あの時と同じ匂いがする。

 匂いのせいで、頭がぼんやりしそうになる。
 視界もけぶってきた。
 手足が重くなってきたような気がする。

「はこひめさま……」

 紅騎さんと同じ、焦点の曖昧な目をした龍が寝間着の胸に僕の背中を支えながら腕を封じている。
 ゆっくりと言葉を紡ぐ口調とは裏腹に、腕を封じる力は強い。

「やめて、離してっ…、聞いて…っ…」

 暴れるも、びくともしない。
 その癖、僕の拳が誤って頬を掠めても、瞬くことすらないのだ。
 僕だけが消耗して、息が上がってくる。

(操られている龍を助ける術)

 さっきから繰り返し、夢の中の朋哉さんからもらったデータを探すけど、見つけられない。
 これも鍵がかかっているんだろうか。
 今の僕の力では、扱いきれない術。

――俺が北龍を追いかけていったころの優月は……色んなことができなかった。

(今でも、同じだ)

――朋哉から力を受けたか。
 でも、受けただけじゃ不十分だ。
 使えるようにならなければね。

(その通りだけど……っ)

 ここにいるのは僕だけだ。
 何とか、何とかしないと…。

「ひっ!?」

 ぐいと両腕を頭の上でまとめられ、別の龍が僕の脚から下着ごとズボンを抜き取られた。
 靴下はつけたまま、その上にシャツ。
 そのシャツもボタンに手をかけられて、少しずつ開かれていく。

「やっ、返っ、…っ」

 作業はすべて龍たちが無言で、淡々と行っていた。
 朋哉さんは部屋の隅に立ち、一部始終を監視している。
 紅騎さんは僕が部屋に入ってきた時のまま、布団のそばで正座して、目はやはり僕を見ていない。
 何を見ているのかわらない視線を闇に移ろわせている。

 龍の1人が背後から僕の半身を抱き、耳に口元を近づけた。

「っ…」

 舌が耳殻を這う。
 息とともにゆっくりと動くさまはねっとりと気持ち悪くて、背筋が粟立った。

「離しっ…」

 体の真横にいる龍は、首筋から鎖骨を舌で撫で、同時に胸板に手を滑らせていた。
 まだシャツに隠れて見えない胸の先を、指の腹で撫でる。

「…ん…っ」

 小さな声が、鼻を抜けた。
 胸の先に触れられた瞬間のことだった。
 龍が、まだ埋もれたままの同じ場所をそっと摘んだ。


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あきゅろす。
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