龍のシカバネ、それに月
2
そう思っている間に、鬼火は扉に吸い込まれるようにして消えて行った。
「!? 消えた……」
やおら、扉が開いた。
中から男の腕が伸びてきて、僕の腕をとり、中へ引きこまれた。
「っわ……!」
数人の龍たち、そして、
「朋哉さん……」
「ようこそ、可愛い優月」
待っていたよ。
そう言って、朋哉さんは錆だらけの扉に両手のひらをそっと押しつけた。
「無粋な邪魔を入れるつもりはないのでね」
手のひらを中心に、扉がどんどん消えていく。
(だめだ)
作戦では、僕が入ると同時に、外の包囲から突入になる予定なのに。
まさか扉が消えるなんて。
表でばたばたと足音が聞こえる。
消えた扉の後は、ただの壁だ。
壁を叩く拳の鈍い音がする。
それを耳にして、朋哉さんは小さく眉間を潜めた。
「『誰にも言わないで』と言ったのに。優月、話してしまったんだね。それにしても……西龍は12年の間、戦をせずにきて、力が鈍ったのではないか?」
「灰爾さんはそんなことっ……!」
最初に僕の腕を捕らえた龍に加えてもう1人、僕のもう片腕を取る。
2人とも、見覚えのある顔だ。
確か傷を看て、力を与えた。
あの時はこんな虚ろな表情はしていなかったのに。
部屋に、山茶花の几帳が立っていた。
それを過ぎると、和室に布団が敷いてあった。
「紅騎さん……?」
布団のすぐそばに、白い寝間着を着た紅騎さんが、闇を目に映してすわっている。
背後からゆっくりと近づいてきた朋哉さんが、ふわりと笑んだ。
「優月。君は南龍の匣となって、あるべき場所に戻るんだよ」
は……
(“匣”――? 紅騎さんの!?)
冷たい壁に、灰爾が手のひらをくっつけた。
その甲に耳をそばだてる。
「もう向こう側に気配はないな。空間を切り離したんだ」
そのままの格好で灰爾は切り離された空間を繋ごうと、目を閉じた。
「中に何人か抱えたままの移動だ。そう遠くには行けない。近くを探せ。入口がない可能性は高い。気配を感じた場所は躊躇わず壊せ」
「は!」
俺が飛ばした指示に、霧雨の中、龍たちは散っていく。
南の、よく訓練された龍たちだ。
そんなことを思いながら、優月だけを吸い込んで行った壁の前に戻ってきてしまう。
耳をそばだてるが、何の音も気配もない。
「さすがだね、青鷹。つい最近も隊を率いていただけのことはある。やりたい方向性はあっても、自分以外の他人に指示を出すってのが、俺は苦手みたいだな」
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