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龍のシカバネ、それに月
10

「……。……嬉しい……ですよ?……ちゃんと……」

 髪を、ひとつまみだけ、つんと引っ張られる。
 鼻先を離した青鷹さんに目をやると、視線が合った。
 くすくす笑い。
 言わせたいことを言わせてやった。
 そんな心中が透けて見える、悪ガキの忍び笑い。

「……ズルいです」

「大人のやり方?」

 するすると指の隙間を落ちていく僕の髪を、青鷹さんが掬いとる。
 指に、絡める。

「……全然大人じゃないです」

 どっちでもいい、そう呟いて、軽く合わせるだけの口づけをくれる。
 もう、ひんやりしていない青鷹さんの体温が僕を安心させてくれる。

「あのー……」

「っ!!?」

 唐突に割って入ってきた声に顔を上げると、寒椿の几帳の向こうに、両膝をついた姿勢で固まっている静さんの姿が見えた。

(〜…っ! ……! 見た? 見たよね……!?)

「お邪魔したようで申し訳ございません。何分、時間もありませんもので……その……」

 見られたと焦る僕のそばで、青鷹さんは平然と「入れ」と言った。

「!?」

 せめて顔の赤みが収まるまで、待って欲しい。
 慌てて青鷹さんから離れて衣服と髪を整えると、几帳に目をやった。
 こっちのことをどう解釈しているのかわからないけど、普段の静さんには有り得ないゆっくりした所作で、立ち上がっている。
 青鷹さんはというと、何事もなかったような顔で、半身を起こしていた。

「東の後継、久賀さま。お初にお目にかかります。静と申します」

 姿を表した静さんが板の間に膝をついて、深々と頭を下げた。

「静。俺が不在だった間のことを話せ。時間がない、とは?」

 静さんは青鷹さんからちらと僕を窺うように視線を寄越した。
 頷く。
 僕が説明するより、静さんの理路整然とした話を聞くほうがよほど早い。

「――申し上げます」







「よう、青鷹。生きてたか」

 静さんの話が終わったタイミングで入ってきたのは、灰爾さんだった。

「さすがの“龍殺し”も北龍頭領にはかなわなかったと見える」

 恐ろしいもんだね黒龍は、と皆の無言をものともせず、灰爾さんは僕の隣に腰を下ろして、「今日も可愛いね」と頭を撫でた。
 その手を、青鷹さんがぱしっと払いのける。
 灰爾さんはその様をにやにやしながら見た後、妙に静かな声色で言った。

「ごめんな、青鷹。実はおまえがいない間、寂しがってる優月ちゃんを慰めてるうちに、俺たち……」

 恐い顔で僕と灰爾さんを見てくる青鷹さんに、僕はぶんぶん首を横に振った。
 控えていた静さんまで「そうなんですか!?」と声を上げる。
 そんなわけないって!

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