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龍のシカバネ、それに月
8

 静さんは「わかりました」とだけ言い、部屋を出て行った。

 おそらく、今の話を頭領たちと相談するのだろう。

(そこまでことを大きくしても良かったんだろうか)

 いや、今の僕に判断するだけの力はない。
 朋哉さんからもらった匣姫の情報にも力にも、まだ鍵がかかっているものがたくさんある。

(零時……)

 約束の時刻まで、まだ時間がある。

 僕は意識のない青鷹さんに手を伸ばした。
 手のひら、両手、頬。
 ひんやりとした肌に触れる。

「お帰りなさい、青鷹さん……」

 貴方のおかげで、朋哉さんは12年ぶりに帰って来られた。
 僕は初めて、匣宮の人と話して力を分けてもらえた。
 貴方のおかげだよ。

 ごめんなさい。
 青鷹さん1人に苦しい思いをさせたことを。

 同じ布団に横になって青鷹さんの背中にそっと抱きついた。
 目を閉じて集中する。
 体の奧の匣から光を出して、ゆっくりと手に流れこませて。手のひらから、体全部から、青鷹さんに力をあげられるように。
 体温をあげられるように。

 また以前と同じように、優月と呼んでほしい。
 贅沢な僕は、次々と欲が浮かんできてしまう。
 名前を呼んでほしい、頭を撫でて欲しい、好きだと言ってほしい……

「……ゆ、づ……?」

 掠れた声が聞こえたような気がして、まぶたを開いた。
 抱きついている背中が小さく揺れて。

「青鷹さん……? 気が、ついたの……?」

 嘘。
 半信半疑で半身を起こして、青鷹さんの顔を覗きこんだ。
 まつげが小さく震えるようにして、うっすらとまぶたに隙間ができる。
 潤んだ目がぼんやりと僕を見て、きょとんとした表情を見せた。

「どうして……優月が、ここに……? ……ゆめ……」

 覗きこんでいる僕のこめかみから、髪に指を梳きいれながら、たどたどしく言う。
 青鷹さんの中では、まだ北龍のもとにいることになっているんだろうか。

「現実です。南龍屋敷ですよ。帰ってきたんですよ」

 そう言って呼びかけても、まだきょとんとした顔をしていて。
 大きな手のひらが、僕の頭と顔と肩にべたべたと触れていく。
 まるでこれが、本当に現実であるかどうか、確かめるみたいに。

 最後にがしっと両手で僕の顔を包みこんで、目を合わせる。
 ぼんやりしていた焦点が、僕の目に合っている。

「青鷹さ……痛い……っ」

「帰ってきた夢か」

「違、――んっ……」

 ぐるっと体勢を反対に替えられて、仰向けにされたかと思うと、瞬時に唇を塞がれた。
 ひんやりとした、柔らかい唇で。


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