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龍のシカバネ、それに月
7

 静さんの質問を真正面から受けながら、僕は夢の中で朋哉さんが言っていた言葉を思い出していた。
 2つ月の話をしていた、あの時の言葉を。

――匣姫候補から外された。
――むしろ匣宮から抹消したいと思われるほどの汚点だったようだ。

 2つ月は、匣宮の中でも禁忌だったんじゃないか。
 それを僕に話したのは、僕が匣宮の人間で、悪戯に龍を不安にしないための秘密……。
 だとしたら、静さんに本当のことは言えない。

「えっと、それはっ……何て言ったら良いかっ……その……」

「わかりました。匣宮の禁事ですね。ただし、先の匣姫さまを警戒すべき存在であるということは認識させていただいて良いですか?」

 僕のめちゃくちゃな動揺をあっさりとスルーして、対策を打ち出してくる。
 さすが『匣姫』の側人として選ばれた龍だと、しみじみしていると「優月さま」と追い討ちをかけられた。

「あ、えと。でも、ずっと『別の誰か』……これは僕も何者かわからないんだけど、その別人てわけじゃなくて、ちゃんと朋哉さんでいる時もあるから。常時『警戒すべき存在』として見るというのは危険だと思います。『誰か』であると同時に彼はやっぱり朋哉さんなのだし、攻撃対象にはしないで欲しいです」

 答えに対して多くの疑問も残っているだろうに、それ以上の追及はせず、必要最低限の情報で、わかりました、とまたあっさり承諾する。
 目の前の指が一本になった。

「青鷹さまを返してもらうための条件とはいったい何だったのですか?」

 朋哉さんから耳打ちされた条件。

――今夜零時、離れで宴を催す……それに、優月もおいで。
――迎えをやるからね。それと一緒においで。誰にも言わずに、ね。

(誰にも言わず……)

 朋哉さんの言葉を頭の中でくり返していると、静さんの声が僕を現実に引き戻した。

「良いですか、優月さま。『誰かを危険な目に遭わせたくない』という良心は、同時に傲慢だということを理解して下さい」

 思ってもみないことを言われて、顎を捕まれて静さんの目を見ながら「傲慢?」とくり返した。
 黙っていることに上から見ているような気持ちは、これっぽっちもなかったけど。

「誰か1人が全部背負い、それが堰を切った時。何も知らされていなかった者たちと、情報を少しでもシェアしていた者たち。どちらがより多く助かるとお思いですか?」

「――――っ…」

 誰にも内緒の宴。
 それにはおそらく、朋哉さんに入った何者かと、彼の息がかかった者……紅騎さんみたいに操られた者が集まるのだろう。
“宴”が何を目的にしているのかはわからないけど、僕に何かあれば三龍は匣姫を失うことになる。
 それは北龍の思惑の1つということになる。

“知っている者たち”と“知らない者たち”どちらがより多く助かると思うか?

「今夜零時……場所は離れ。でも朋哉さんに気づかれちゃだめだ。離れていた間、衰弱した青鷹さんに何かしなかったとも限らないし、向こうには紅騎さんもいるから。できるだけ、動かないで」

 さらさらと雨の音がする。


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