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龍のシカバネ、それに月
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 僕には見つけられなかったけど、何かあるんだ。

「迎えをやるからね。それと一緒においで。誰にも言わずに、ね」

 ふふ、と小さく笑うと、耳元から唇を離して踵を返して行った。

「行きましょう、静さん」

 青鷹さんを負った静さんの背を押して、山茶花の几帳を過ぎ、襖を閉じた。

 知らず、息が洩れた。
 無意識のうちに緊張していたのだろう。
 それでも、と目を閉じたままの青鷹さんを見上げた。

(青鷹さんが帰ってきてくれた……)

 まだ戦場にいる龍もいるんだから、おおっぴらには言えないけど、それが一番嬉しい。
 早く帰ってきて欲しいと、ずっと願ってきた。
 いざそれが叶ったら、早く目を覚まして欲しい、早く名前を呼んでほしい……そんなことばっかり考えてしまう。

「優月さま。報告がございます」

「あ、はい。何でしょう?」

 現実に引き戻されて、慌てて前を向く。

「昨日、申しあげておりました不審な人影ですが」

 ああそんなこともあったな、と記憶を過ぎらせる。
 次から次へと、絶え間ない。

「あれを今朝方、南龍屋敷の近くで見たという者がおりまして。数人でかかったそうなのですが、かなりの手練れだそうで、捕らえることは適わなかったそうです」

「ふうん、相手は1人なんだよね? 朱李さまは何と?」

 襖を開けて、寒椿の几帳を過ぎる。

「『引き続き警戒せよ』との仰せです」

 新たに用意されていた寝具一式を僕が用意して、静さんがその上にそっと青鷹さんを横たえた。
 まだ、目は覚まさない。

「……僕、青鷹さんのそばにいても良い?」

 布団のそばに腰を落として、静さんを仰ぐ。
 静さんは僕と青鷹さんを交互に見て、苦笑を浮かべた。

「『だめです』とは言い難い雰囲気ですよね。それに、青鷹さまに力を戻してさしあげられることができるのは、貴方しかいません」

 僕の隣に正座して、静さんはじっと僕を見つめてきた。
 二本指が目の前に差し出される。
 ……何……。

「教えていただきたいことが2つございます。本当は2つだけじゃ済みませんけど、今回は2つに負けておきます」

「負けてって……」

 全然僕の話を聞く気がなさそうな静さんは、台詞の途中で次の話にかかった。

「まず1つ目ですが。優月さま、貴方はさっき先の匣姫さまに向かって『貴方は朋哉さんじゃない』と仰いましたね」

「……はい」

 静さんの目が僕の視線を逃がすまいと、片手で僕の顎を支えて前を向かせた。

「どう見ても、あの方は先の匣姫さまでした。そりゃあ、衰弱した龍に力を下さる、あんな姿を見たのは初めてでしたから、雰囲気が違うといえば、違いましたけど。『朋哉さまではない』と断言なさる優月さまの根拠が知りたいです。朋哉さまではないのなら、あの方は誰なのか?」


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あきゅろす。
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