龍のシカバネ、それに月
6
僕には見つけられなかったけど、何かあるんだ。
「迎えをやるからね。それと一緒においで。誰にも言わずに、ね」
ふふ、と小さく笑うと、耳元から唇を離して踵を返して行った。
「行きましょう、静さん」
青鷹さんを負った静さんの背を押して、山茶花の几帳を過ぎ、襖を閉じた。
知らず、息が洩れた。
無意識のうちに緊張していたのだろう。
それでも、と目を閉じたままの青鷹さんを見上げた。
(青鷹さんが帰ってきてくれた……)
まだ戦場にいる龍もいるんだから、おおっぴらには言えないけど、それが一番嬉しい。
早く帰ってきて欲しいと、ずっと願ってきた。
いざそれが叶ったら、早く目を覚まして欲しい、早く名前を呼んでほしい……そんなことばっかり考えてしまう。
「優月さま。報告がございます」
「あ、はい。何でしょう?」
現実に引き戻されて、慌てて前を向く。
「昨日、申しあげておりました不審な人影ですが」
ああそんなこともあったな、と記憶を過ぎらせる。
次から次へと、絶え間ない。
「あれを今朝方、南龍屋敷の近くで見たという者がおりまして。数人でかかったそうなのですが、かなりの手練れだそうで、捕らえることは適わなかったそうです」
「ふうん、相手は1人なんだよね? 朱李さまは何と?」
襖を開けて、寒椿の几帳を過ぎる。
「『引き続き警戒せよ』との仰せです」
新たに用意されていた寝具一式を僕が用意して、静さんがその上にそっと青鷹さんを横たえた。
まだ、目は覚まさない。
「……僕、青鷹さんのそばにいても良い?」
布団のそばに腰を落として、静さんを仰ぐ。
静さんは僕と青鷹さんを交互に見て、苦笑を浮かべた。
「『だめです』とは言い難い雰囲気ですよね。それに、青鷹さまに力を戻してさしあげられることができるのは、貴方しかいません」
僕の隣に正座して、静さんはじっと僕を見つめてきた。
二本指が目の前に差し出される。
……何……。
「教えていただきたいことが2つございます。本当は2つだけじゃ済みませんけど、今回は2つに負けておきます」
「負けてって……」
全然僕の話を聞く気がなさそうな静さんは、台詞の途中で次の話にかかった。
「まず1つ目ですが。優月さま、貴方はさっき先の匣姫さまに向かって『貴方は朋哉さんじゃない』と仰いましたね」
「……はい」
静さんの目が僕の視線を逃がすまいと、片手で僕の顎を支えて前を向かせた。
「どう見ても、あの方は先の匣姫さまでした。そりゃあ、衰弱した龍に力を下さる、あんな姿を見たのは初めてでしたから、雰囲気が違うといえば、違いましたけど。『朋哉さまではない』と断言なさる優月さまの根拠が知りたいです。朋哉さまではないのなら、あの方は誰なのか?」
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