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龍のシカバネ、それに月
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 攻撃を受けたというのに、その口元は笑っていた。

「朋哉から力を受けたか。でも、受けただけじゃ不十分だ。使えるようにならなければね」

 紅騎さんの手に拘束されたまま、ぎりっと朋哉さんを見据える。
 朋哉さんは視線をはずすことなく、僕を見つめて微笑していた。

「可愛い優月。おまえにもすぐにわかる。愛しい者と共に行ける人生なぞ、匣姫にはないことが」

「そんなことはありません!」

 即返事をすると、今まで嫣然と笑っていた朋哉さんが、一瞬目元を曇らせた。

「……自分が証明して見せるとでも?」

「そうじゃありません。僕の両親は、父は匣姫だったけど、ちゃんと好きな人と結婚して暮らしてましたから」

 紅騎さんの手から逃れようと暴れながら、それだけを言い切ると朋哉さんが「離してやりなさい」と声をかけた。
 途端に、紅騎さんの手が僕を解放する。
 静さんが僕を庇うかのように、間に入ってくれた。

 そっと触れた青鷹さんの頬は、ひんやりと冷たかった。
 朋哉さんが言うように、今すぐ匣の力が必要だ。
 でもそれを、朋哉さんに任せたくない。
 ……朋哉さんじゃない、朋哉さんには……。

「青鷹さんは、僕が看ます」

 朋哉さんは苦笑を浮かべた。

「返さない、と言ったら?」

「力ずくでもっ……」

 青鷹さんの両脇に腕を入れるも、気を失った体は信じられないくらい重くて。
 予想通り、まったく持ち上げることができない。
 横に静さんが片膝をついて、ちらと朋哉さんを見た。

「連れていけば良い。ただし、条件がある」

 朋哉さんの許可に、静さんがびくともしなかった青鷹さんの体を肩に背負った。
 布団から肩へ移動させられたというのに、青鷹さんは気がつくことがなかった。 朋哉さんははだけていた寝間着の襟を正して、紅騎さんに軽い口づけを与えていた。
 されるがままの紅騎さんは、幸福そうな顔をさえしている。

――南龍頭領後継に注意してやってくれ。できれば誰かに監視させろ。

 朋哉さんはそう言っていた。
 朱李さまの命令通り行っていれば今でも監視の目が紅騎さんを見ているはずだ。

 だが、誰が気がつくだろう。
 誰よりも嘱望された美しい先の匣姫が2つ月で、何者かの支配下にあるだなどと……。
 先の匣姫と一緒にいることが危険だなどと、誰が思うだろう。
 唇を緩めて僕を振り返る朋哉さんに、僕は頷いた。

「条件て何ですか?」

 青鷹を渡すんだから何でも飲むよね? と前置きを置いて。
 するすると衣擦れの音を立てて僕に近づくと、耳に唇を寄せてきた。

「今夜零時、離れで宴を催す……それに、優月もおいで」

 離れ、という言葉にぴくりと肩が揺れた。
 自失状態の紅騎さんが歩いていた、離れ。

(やっぱり、離れに何かあるんだ)


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あきゅろす。
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