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龍のシカバネ、それに月
4

「失礼します」

 山茶花の几帳を抜けると、濃い煙が目にしみた。
 鼻をつくのは何か、花の香り。
 部屋中に香が焚きしめられているようだ。

 わずかに滲んだ涙の向こう側に、信じられない光景があった。

「な……にを……」

 寝間着を着た、意識のない青鷹さんに、半裸の朋哉さんが抱きついて同衾していた。
 その朋哉さんの頭を膝に乗せた紅騎さんが、流れる黒髪に指を通している。
 青鷹さんの頬に指を添え、舌で撫でてから、朋哉さんはゆっくりと僕を振り返った。

「『何をしているのか?』 知らないの、優月。匣姫は龍に力を与えられる。手を繋ぐ、指を絡める、手のひらを当てる、口づける……」

 言いながら髪を梳く紅騎さんの手を引くと、その唇を合わせた。
 足元に立っていても、舌の絡む水音が耳に触れる。

「……こひめさま……」

 水音に混じって、紅騎さんの切なげな、儚い声がこぼれた。
 自失状態だった紅騎さんが『匣姫さま』とだけ言葉にできる。
 色名龍にとって、ただただ愛しいだけの存在、匣姫をのみ求めて。

(結局、離れに何も見つけることはできなかったけど、紅騎さんが朋哉さんの中の何かに引き寄せられていたことは確かだ)

 紅騎さんは愛おしげに朋哉さんの唇を食む。
 まるでずっと一緒に生きてきた恋人のように。
 梳いていた指が頬をたどり、首筋を降り、露わになった白い胸の飾りに触れた。

「……んん…」

 甘い声をこぼして愛撫を受け入れながら、朋哉さんは青鷹さんの首筋に舌を這わせた。

「っ、やめて下さい!」

 駆け寄って膝をついて伸ばした手を、紅騎さんがパシッと音を立てて掴んだ。

 僕を見る目が鋭い。
 怒気を含んだ目つきは、僕が見たことのない顔だった。

「紅騎さん、離して下さいっ!……こんなのっ!」

「一番多く力を上げられる方法、優月は知ってる?」

「──……っ!」

 朋哉さんは僕に問いながら、青鷹さんの胸元を撫でていく。
 胸元から腹、下腹……。

「体の一番奥深く繋げることで、一番多く力をあげられる。どんな術をどれだけ行使しようと枯れることのない力が、青鷹のものになる」

「青鷹さんに触るな!」

 かっとなった。
 頭に血が上って、何を考えたのかはわからないけど。
 朋哉さんの体は、電流でも走ったみたいにのけぞって、短い悲鳴を上げた。

「先の匣姫さま!」

 静さんの叫ぶような声に、「貴方は朋哉さんじゃない!」と喚いていた。

 痺れが残っているのか、ゆっくりと半身を起こしながら、朋哉さんに入った何者かは僕を見た。

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