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龍のシカバネ、それに月
2

「東龍後継が戻った。北龍との対峙を解いて、だ」

 これがどういう意味だかわかるか? と問うてくる。

「北龍が……来る」

「そうだね。三龍をつぶしにか、俺を連れ去りにか、どちらかはやるだろうね。その前に、優月」

 朋哉さんが動くと、冠についた細かい細工がしゃらしゃらと鳴る。
 その腕を僕の両肩に置いて、黒すぎる目をじっと僕のそれに合わせた。

「匣姫として、先の匣姫である俺のすべてを受けとって」

 そう早口で言いきると、朋哉さんは性急に唇を重ねた。
 熱を持った舌が内壁を撫でていく。
 唾液が混ざる儚い音がするたびに、じわりと高められる。

 柔らかな感触とは裏腹に、痛みを伴う感情も一緒に流れこんできて、体がびくっと跳ねた。

(痛い……悲しい、カナシイ……)

 重なった唇をうっすらと離して、その隙間から「お願い。じっとして」とこぼすように挟んで。
 再び、合わさった唇の隙間から、絡め取られた舌の中から、体に流し込まれる。 匣姫の知識と、時折こぼれてくる朋哉さんの心。

(“碧生と、ともに、ありたい”……)

 望まない配置先は東龍後継 波真蒼治さんだった。

 その夜、匣宮を訪れた碧生さまに、朋哉さんは会わなかった。
 会うことを拒んで、少しだけ泣いた。
 こんなことは何でもないことなんだと、繰り返し自分に言い聞かせて。
 ジャンクであろうとなかろうと、今の自分はもう匣姫なのだ。
 いずれどこかに配置される運命だと、最初からわかっていた。
 ただ、それが現実になっただけの話だ。
 永遠と呼べるほどの年月も続いてきた伝統を、自分一人で、それもジャンクの匣姫の身で何ができる?
 せいぜい碧生と一時の間逃げるだけだ。

(兄上……貴方は……今どうしている?)

 愛する女と運命から逃げた兄、月哉。
 その行方を探し、追手が何度も差し向けられた。
 さぞや戦々恐々と息を殺して生きていることだろう。
 貴方は今、何を考え、何をして生きている?
 貴方は今、幸せか……?

 痛い……痛い、カナシイ……。
 …………

 やがて、唇が離れた。
 間近で見る先の匣姫はやはり美しい。
 黒すぎる目に見つめられて、魂を吸い込まれそうになりながら、赤い唇が言う言葉を耳にした。

「匣宮の子。龍を、頼む」








 まだぼんやりと、夢を見ているような感覚が残っている。
 寝間着を脱いで、シャツの袖に腕を通しながら体がじんわりと熱を持っていることに気づいた。
 朋哉さんがくれた力のせいだろうか。

(夢なのに、こんなことを思うなんて……)


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