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龍のシカバネ、それに月
8

(紅騎さんと灰爾さんは、どこに行ったんだろう……)

 残る半分の離れにいるのか、それとも灰爾さんの手で連れ戻されて行ったのかわからないけど、僕が見渡せる中にその姿はない。
 2人ともどこへ行ったのだろう。
 ちゃんと帰ったんだろうか。

 それとも、知らない扉を抜けて、龍だけが知る世界へ抜けたのかも……?

 そんなことを考えていたからか、飛んできた声に驚いて、肩がびくっと震えた。

「優月さま! いったいどうして、こんな時間に、こんな場所に!?」

 傘をさした静さんが、寝間着の裾を濡らして駆け寄ってきた。手にしたタオルで僕の顔を拭い、もう片手に持った傘を広げて僕に差し出した。

「離れって、今は誰もいないんですよね?」

「いませんよ。負傷した龍たちも本屋敷に移動しましたし、先の匣姫さまも優月さまも移られたじゃないですか」

「――っ! そうだ。朋哉さん、ちゃんと部屋にいた!?」

 は? と言いたげな静さんが僕の手首を取って歩き始めた。
 道がぬかるんでいて、あちこちに泥が飛ぶ。

「静さん! 朋哉さんはちゃんと寝てましたか!?」

「当たり前でしょう。何時だと思ってるんですか。そんなことより、気になることがあったんです」

 雨脚の音がうるさいせいで、静さんの声も普段より大きい。

「気になることって!?」

 廊下で雪駄を脱いだ足を、新しく運ばせたタオルで拭ってくれる。
 何枚か腕に抱えた若い南龍からもう一枚もらって、頭と顔を拭った。
 ばたばたと数人が走っていく足音が、遠くに聞こえる。

「何があったんですか?」

 紅騎さんのことも、まだ気にかかっていた。
 でもこの時間帯に南龍たちが走っていく光景は、あまり見ない。

 貴方がこんなところにいるのも気がかりですが、と前置きを置いて、静さんは続けた。

「見張りの者から連絡があったのです。不審な影を見たと。今、確認のために何人か出ていますが、この雨では見つかるかどうか……」

 僕が使い終わった後のタオルを受け取りながら、静さんは空を見上げた。

「不思議です。今日は1日晴れていたのに突然こんなに降るなんて。まるで空に穴でも開いたみたいに」

「――空に、穴?」

 静さんが言った言葉を繰り返しているだけなのに、胸が思い当たることを浮かばせて、ちくっと痛んだ。
 まさか。

「そういえば降り出す前に地震があったでしょう。寝ていたので、相当な揺れを感じて飛び起きたんですよ。不審者といい、何かの前触れじゃないかと思うと……優月さま?」

――優月ちゃん。今、術使ってなかった?

 灰爾さんのセリフが脳裏を過ぎる。
 まさか、そんなこと。


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