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龍のシカバネ、それに月
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 朋哉さんが自分のことを覚えていないんじゃないかと、不安を訴えてきた。

(普段の紅騎さんなら、僕にそんな相談、もちかけてこない……と思う。切ない自信だけど)

 それに、夜中に離れの近くを歩いていた紅騎さんのことも気になる。
 確かに普段と少し違うけど、それと『監視』を繋げる朋哉さんもわからない。

「出陣が決まったってのにあんなにボーッとしてるんじゃ、勤めが果たせないだろう」

「灰爾さんて、口は悪いけど、面倒見が良いですよね」

 言うと「『口は悪いけど』は余計じゃない?」と唇を尖らせた。

「つか、隊長は隊員の命を預かる身だから。紅騎じゃなくてもボーッとしてんのは困るね」

 頭領後継らしい意見に、僕もわからないなりに小さくうなずいた。
 出陣していく者たちの気持ちは把握できてるわけじゃないけど、負傷して帰ってきた龍なら、たくさん看てきたから。
 庭を歩いて視線をあちこちに流して紅騎さんの姿を探しながら、ちらと灰爾さんを見た。

 何でもないような顔をして、僕と同じに紅騎さんを探しているけど。
 西龍は呪詛の夜にほとんど壊滅した。
 今や、西龍の生き残りは灰爾さんと頭領の雪乃さんの二人きりだと言われている。
 隊員になる白い龍がいないのだ。
 灰爾さんには、戦いたくても隊がない。どんなに歯がゆい思いをしているだろう。

(……どうして西龍は、雪乃さまは壊滅するまで北龍を追ったんだろう……)

 雪乃さんは成就できなかったけど、匣姫の配置先だった。
 匣姫――父さんの、匣宮月哉の。

 呪詛の夜、拐われたのは、先の匣姫 朋哉さんだ。
 父さんじゃない。

 だとしても三龍にとって、朋哉さんが大事な人であることには変わりない。
 命をとして守ろうとすることを、おかしいとは言わないけど。

 同じように戦った東龍も、南龍も、ある程度のところで軍を退いた。
 だからこそ今でも戦えるほどの龍が残っている。
 いくら先の匣姫のためとはいえ、西龍の戦いかたは少し常軌をはずれていたんじゃないか――

「灰爾さん……」

 小さく名前を呼びながら、彼の手を取った。
 ひんやりとしたその手は、いつか灰爾さんの部屋で看病してもらった時と同じに、心地良い。

 手のひらから力が流れていけば良い。
 僕の匣の力が、少しでも西龍の慰めになってくれたら。

「優月ちゃんが嫁に来てくれるのが、一番慰めになるんだけどなぁ」

 僕の気持ちを見透かしたようなセリフに、一瞬どきっとして灰爾さんを見上げた。

「…………。僕は……」

 青鷹さんが好きだ。
 でも託占で決まる慣わしを、今も重視している人はいる。
 増して青鷹さんが行方不明である今、僕の気持ちを口にして何になる……

「ごめんごめん、そんな顔しないでよ。優月ちゃんに会った時は、一応言うことにしてるだけだから」

 ほら気が変わってるかもしれないしね?
 そんなことをつけ加えて、笑ってくれる。
 そんな風に笑ってくれると、ずるい僕は安心してしまうのだ。

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あきゅろす。
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