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龍のシカバネ、それに月
5

「紅騎を追いかけてたんだけどね。途中、優月ちゃんの姿が見えたから、ついね」

「『つい』って。ダメじゃないですか……紅騎さんは……」

 紅騎さんのことは朋哉さんから監視するように言われていた。
 その足で南龍頭領 朱李さまにかけあって、紅騎さんに見張りをつけてもらうことを頼んでおいた。
 朱李さまは「その必要性がわからない」と仰っていたけれど、僕も同意見だ。

 南龍頭領後継に見張りをつける理由がわからない。
 幸い、朱李さまは「先の匣姫さまの仰せならそのように」と了承してくれたから良かったんだけど。

(「紅騎さんを追いかけてきた」って言ったよね。もしかして、灰爾さんが紅騎さんの見張り役? 西龍後継自ら、見張り役を受けるなんて、あり得るのかな)

「今、なんか揺れたよね。地震みたいな」

 僕の頭の中でぐるぐる回ってる話なんて知るよしもない灰爾さんは、まだ揺れて岩肌に小さな水しぶきを立てる池のほうを見て言った。

「灰爾さんも感じたんですか?」

「うん。立ってるのにわかったから、けっこう揺れたんじゃないかな。……優月ちゃん」

 後半、僕の名前を呼ぶ灰爾さんは困ったように笑っていた。

「はい……」

「今、なんか術使ってたでしょ?」

 青鷹さんを守る術なら飛ばしていた。

「……!? まさか、またどこか違う場所に落ちて、関係ないところを破壊っ……!?」

 自分で顔から血の気が引いていくのがわかった。
 頭の中に、数日前破壊した、離れの悲惨さがありありとイメージできる。
 どこかわからないけどまた離れみたいに破壊したとなったら大変だ。

 それも大変だけど、今回放っていたのは青鷹さんに向けての術だ。
 守護のつもりで放った術が、青鷹さんの近くで暴発していたとしたら――。

「ど、どうしようっ……! 僕っ、朋哉さんに話して対処を聞いてきますっ!」

 慌てて灰爾さんの前を通り過ぎようとした時、羽織の腕を取られた。
 振り返ると、灰爾さんの顔からさっきまであった薄い笑いが消えている。

「優月ちゃん。今日の軍議で、紅騎が隊を指揮して出発することになったんだ」

「え……」

 僕は、北龍の正確な居場所を知らない。
 朋哉さんに教えてもらったのは精神世界での、青鷹さんの居場所だ。
 行って、心を救えても体ごと救えるわけじゃない。

 でも、紅騎さんと同じ南龍の朝陽が、その場所をわかっている。
 二人で行けば戦功を上げられる可能性は高い。知らず、ごくりと唾液が降りた。

「ただ、ここのところ、紅騎がおかしいっていうか。表情がないっていうか、いやまぁ、それは前からだと言われればそうなんだけど」

「いえ、仰る意味はわかります。最近の紅騎さんはどことなく様子が……」

 初めて気づいたのはいつだ?
 いつだったかの朝、僕が起き出して来たらすでに朋哉さんのそばにいて。
 彼のそばで笑みを浮かべて嬉しげに話していた。

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