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龍のシカバネ、それに月
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 後から茶を持ってくると言う龍に、要らないと短く言って、朋哉さんは僕を振り返った。

「優月が何もできないのはよくわかった。前言撤回する。これから叩き込むから、ここへすわりなさい」

「えっ……教えてもらえるんですか?」

 いそいそ朋哉さんの向かいに座ると、朋哉さんは呆れたような顔で「屋敷が幾つあっても足りなくなる」と呟いた。
 恥ずかしながら、まったくその通りで返す言葉もない。

「あの、だったら。教えてほしいことがあります」

 何? とぞんざいに返してくる朋哉さんに、ごくりと生唾を飲んだ。

「離れている人を守る──方法です」

「──……」

 表情のなかった朋哉さんの目が、少し揺らいで見えた。

 北龍に囚われの身でありながら、朋哉さんはずっと珠生さんを遠隔で守ってきた。
 珠生さんが気づいていたのか気づいていなかったのかわからないけど。
 それでも朋哉さんの力は珠生さんを守っていた、その効力はあったと僕は思う。

 東龍頭領後継として、12年間、藍架さまを支えて三龍を率い、北龍にとって一番目障りな存在でもあったはずだ。
それでも、珠生さんはずっと無事だった。
自ら、後継の地位を手放すまで。

「そんな術があるってことは知ってるんだ……」

「匣宮で初めて会った時、朋哉さんが言ったんです」

 そうだっけ、と元の無表情に戻って、朋哉さんは細い息をついた。
 紅騎さんが言っていた「先の匣姫は物忘れがひどい」という台詞を思い出した。
 確かにそう見える、とふと思う。

「方法は教える。でもあれは……おおよそでも相手の場所がわからなければ無理だ。優月が誰を守りたいのかは知らないけど、その人の場所はわかるの?」

 膝の上に置いた手が、きゅっと拳を握った。

「場所は、わかりません。でも、その人は……青鷹さんは、きっと北龍の近くにいます……」

 だとすれば、場所は朋哉さんがわかるはずだ。
 そう言いたくて、でも言えなくて。
 ちら、と朋哉さんに視線を投げる。

「……そっか、わかった。優月が助けたいのは俺を北龍から連れ出した……東龍か」

「できますか!?」

 前のめりになりそうな僕に「やってみるしかない」と淡々と言う朋哉さんに表情はない。
 元々、喜怒哀楽か薄いんだろうかなどと過ぎらせながら、次の言葉を待った。
 長い睫が瞬いて、僕をじっと見つめてくる。

「優月、薬使ってる? 匣の匂いを抑える……」

 まったく別の話を振ってくる朋哉さんに、また紅騎さんが言った『気まぐれ』という言葉が浮かんだ。
『誰かを守る術』の話はどこに行った?

「えと、はい。使ってますけど。今は、蒼河さんに、その……手伝ってもらって……」

「薬なしでもコントロールできるようになってもらうから。薬で抑えると匣の力も何割かセーブすることになるからね」


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