龍のシカバネ、それに月
5
誰かが見ていた?
瑠璃子が語った?
どちらでも良かった。
ただ、渾名が言い得ていて妙だと、一人笑いが浮かんだ。
「青鷹。龍はなぜここに在るのだろう?」
薄く微笑する碧生さまが、もう一度質問を繰り返した。
「『なぜ』……ですか」
いなくても良い、いる理由がない、とすぐに浮かんだ考えを口にすることは躊躇われた。
相手は龍の統率者なのだ。
「在る理由なきものは、滅ぶべきだよね」
相手は、東龍の統率者後継──
小さな風に前髪を揺らして、碧生さまは陽の光に目を細めてから、俺に視線を戻した。
「碧生さまは、龍には“在る理由がない”と?」
青鷹が望んでいることは、私も望んでいることかもしれない。
まるで謎かけのようなセリフを口にしてから、碧生さまはにこっと口元をほころばせた。
「青鷹。私を手伝え」
──匣宮の、生き残りを探しだシてキテ。
在る理由なきものは、滅ぶべキだカラ──。
「……約束をしよう、青鷹。いずれ、私かおまえかのどちらかが必ず──……」
ガラスのテーブルに、ソーサーを置く小さな音が鳴った。
るり子が細い脚を外して、ソファから立ち上がった。
「南仏に行こうと思ってるの。しばらく戻らないつもり」
そうですか、と相槌を打つと、すぐそばに近づいていたるり子が、じっと俺を見ているのが視界に入った。
「何ですか?」
「……貴方、義青に似てきたわね」
父の名を口にする一瞬、るり子は細い眉を潜ませた。
「親子なんですから、当たり前でしょう」
「貴方も不幸になれば良いわ。あの人と同じに」
ふん、と鼻息を吹く。
「…………。相変わらず、父と仲悪いんですね」
そしてあいかわらず俺のことが嫌いで、俺もこの人のことがどうでも良くて。
理玖のことは……。
「行くわ。外に一緒にいく彼が車を回してきてるの」
スーツケースを引く重い音が聞こえる。
だんだんと遠ざかる。
消えるまで聞くつもりだったのか、その場に立ち尽くしている俺の目の前で、突然玄関ドアが開いた。
「!」
一瞬、るり子が帰ってきたのかと思ったが、入ってきたのは手にスーパーの袋を下げた優月だった。
「わ。どうしたんですか、こんな所に立って」
出かけるんですか? と問うてくる優月に「いや」と短く返すと、にこっと笑い返してくる。
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