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龍のシカバネ、それに月
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 誰かが見ていた? 
 瑠璃子が語った?
 どちらでも良かった。

 ただ、渾名が言い得ていて妙だと、一人笑いが浮かんだ。

「青鷹。龍はなぜここに在るのだろう?」

 薄く微笑する碧生さまが、もう一度質問を繰り返した。

「『なぜ』……ですか」

 いなくても良い、いる理由がない、とすぐに浮かんだ考えを口にすることは躊躇われた。
 相手は龍の統率者なのだ。

「在る理由なきものは、滅ぶべきだよね」

 相手は、東龍の統率者後継──
 小さな風に前髪を揺らして、碧生さまは陽の光に目を細めてから、俺に視線を戻した。

「碧生さまは、龍には“在る理由がない”と?」
 青鷹が望んでいることは、私も望んでいることかもしれない。
 まるで謎かけのようなセリフを口にしてから、碧生さまはにこっと口元をほころばせた。

「青鷹。私を手伝え」

──匣宮の、生き残りを探しだシてキテ。
 在る理由なきものは、滅ぶべキだカラ──。

「……約束をしよう、青鷹。いずれ、私かおまえかのどちらかが必ず──……」









 ガラスのテーブルに、ソーサーを置く小さな音が鳴った。
 るり子が細い脚を外して、ソファから立ち上がった。

「南仏に行こうと思ってるの。しばらく戻らないつもり」

 そうですか、と相槌を打つと、すぐそばに近づいていたるり子が、じっと俺を見ているのが視界に入った。

「何ですか?」

「……貴方、義青に似てきたわね」

 父の名を口にする一瞬、るり子は細い眉を潜ませた。

「親子なんですから、当たり前でしょう」

「貴方も不幸になれば良いわ。あの人と同じに」

 ふん、と鼻息を吹く。

「…………。相変わらず、父と仲悪いんですね」

 そしてあいかわらず俺のことが嫌いで、俺もこの人のことがどうでも良くて。
 理玖のことは……。

「行くわ。外に一緒にいく彼が車を回してきてるの」

 スーツケースを引く重い音が聞こえる。
 だんだんと遠ざかる。

 消えるまで聞くつもりだったのか、その場に立ち尽くしている俺の目の前で、突然玄関ドアが開いた。

「!」

 一瞬、るり子が帰ってきたのかと思ったが、入ってきたのは手にスーパーの袋を下げた優月だった。

「わ。どうしたんですか、こんな所に立って」

 出かけるんですか? と問うてくる優月に「いや」と短く返すと、にこっと笑い返してくる。

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