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龍のシカバネ、それに月
3
 衝撃波は、間違いなく瑠璃子の手から放たれたものだった。
 まさか、呪詛の混乱に乗じて、殺しにかかってくるなんて──

 彼女の背後で「ママ」と高い声を上げる璃玖も見える。

「青鷹……あんたはいつまで力を握りしめているつもりなの!? わたしがどんな仕打ちをしても、力を手放さないなんて、どれほど執着があるの……! いい加減、色名を失いなさい……!」

 いじましい子、と罵り額に手のひらをかざしてくる。

──気にするな。

 意識から、見事に義母と義弟を消してしまった兄の言うとおり、俺は何をされても瑠璃子のことを気にしないようにしていた。
 心を壊して色名を失うことも多いという話は聞いたことがあったが、まさか瑠璃子がそれを俺に望んでいるとまでは、考えが至らなかった。
 
 父の力とともに、意識まで受け継いでしまったかのように、俺には龍として上にのぼるという向上心は欠落していた。
 むしろ兄の、龍の力に頼らずに生きている姿に憧憬すら抱いていた。

 瑠璃子が母親として、わが子に龍としての上を望むなら、俺はそれで良かった。
 だが体に燻る龍の力は、俺の意識とは無関係にそこに在り続けたのだ。

 額にのびたその手首を握りしめたまま、俺の手は光った。

「母親を手にかける気なの!?」

 都合の良い親子関係を口にする瑠璃子に構わず、俺は力を流し続けた。
 やがて電流のように光りながら瑠璃子の体を蝕んでいく龍の力に、俺自身が一番困惑していた。

「ひっ…やめ、やめなさいっ…痛っ…」

 止められない──

 赤い空に無数の稲光が走る。
 その中の一本として、俺が放った力が、雑木林を包んだ。

「ママ」と泣きながら俺に突っ込んでくる璃玖の姿が、光の中に見える。
 その手首を掴んで引き倒し、仰向けになった小さな弟の肩を、土の上に引き倒した。
 涙を零しながら見開かれる目は、瑠璃子そっくりの美しい形をしている。

「ハル兄ちゃ……」

 璃玖との兄弟仲は、決して悪くはなかった。
 敵意をむき出しにしている瑠璃子の元で、海路と俺にどんな感情を持っていたかはわからない。
 だが、俺に向けられるまなざしはいつも穏やかで明るく、柔らかだった。

「ハ、ル兄ちゃ…怖いよ、やめて……」

「──っ……」

 止められなかった。

 陽だまりを集めたような穏やかな光を持つ、小さな色名龍。
 兄とはいえ、俺も12の子供だった。

 体から命ともども引き裂かれる恐怖に暴走した色名龍の力を、俺にコントロールできる術はない。
 皮肉にも、俺から色名を剥がそうとしていた瑠璃子の攻撃が、俺の中の龍の力を暴走させたのだ。

 緑の狩衣は土に汚れ、その体に馬乗りになる。
白く細い首に両手をかけ、気道を潰すように押し込んで……唇を、重ねた。

「やめて……やめなさい、青鷹!」

 俺が放った稲妻で身動きの取れなくなる怪我を負った瑠璃子が背後で叫んでいる。

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