龍のシカバネ、それに月
8
「何かって?」
あまりに漠然とした質問に、正直言って何も知らないことを自覚する。
それもそうだ。
僕はここに来たばかりだし、幼い頃、遠目から眺めていただけだと言っていた静さんたちよりも、朋哉さんのことを知らない。
知っているのは、この間、匣宮でやりとりを交わしたあの数分だけだ。
珠生さんを守ってきたこと、珠生さんを探していること。
北龍に脅されて、彼のために能力を使ってきたこと。
──うう……痛……頭が……やめて、カゲトキ……っ。
頭痛。
遠隔からでも北龍は朋哉さんを苛んで、思い通りに動かすことができる。
「あの人ってさ、気まぐれ? それとも極度の物忘れ?」
僕が考えていたこととは全く違う方向からの切り込みに、思わず「は?」と返してしまう。
気まぐれとか、物忘れとか。
「すみません、僕、そんなことがわかるほど朋哉さんと話したことがないのでわからないです」
「役立たず」
ざっくり切り返してくる紅騎さんに、ぐっと言葉を詰まらせる。
「こ、紅騎さんのほうこそ、何を根拠にそんなことを!? そんなことがわかるほど、朋哉さんと接触があったんですか!?」
早口でまくしたてると、目の前にずいと手のひらを差し出された。
「悪い、おまえみたいなお子ちゃまに聞こうと思った俺が悪かった。忘れてくれ」
言うだけ言うと、さっさと踵を返して行ってしまう。
『お子ちゃま』って、何のことだ!? と内心で喚いてから、ふと夜中に離れを歩いていた紅騎さんを思い出した。
それから、寝所からいなくなっていた朋哉さん。
二人は夕方にも、僕や静さん不在の状態で会っていた。
てっきり朋哉さんは気を失ったままでいて、紅騎さんはそれを見守っていただけだと思ってたけど、まさか……。
『お子ちゃま』……の反対はオトナ……オトナの、やりとり……。
そこまで思い至って、勝手に手が頭を抱えだした。
(ちょっと待って。考えすぎだろ、僕。幾らなんでも帰ってきたばかりの朋哉さんに、紅騎さんが手出しっ……)
夕方、二人でいる時に二人は約束を交わした。
真夜中にもう一度会うことを。
逢瀬を……?
いやでも、さっき僕が起きだしてくるまで二人で話していたけど、“そんな風”には見えなかった。
その、……そういう関係の二人には。
(てか、僕が子供だからわからなかった、っていうこと? いや、でも)
──あの人ってさ、気まぐれ? それとも極度の物忘れ?
もしかして、紅騎さんのあの台詞は。
事実として二人の間に“そういうこと”があったのに、ちっとも“そういう風”に見えない朋哉さんの態度のことを言ってる、とか!?
何を聞いてきてるんだ、何を!
てか、気絶して12年ぶりにようやっと帰ってきた先の匣姫に手を出すって、何やってんの、あの人!?
「ちょ、紅騎さん、今の話はどういうっ──」
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