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龍のシカバネ、それに月
6

 朝陽が言うように、僕はやっぱり疲れているんだろうか。
「早く休みましょう」と言ってくれる静さんの言葉に、寝室の布団に横になった。

「朝緋さまはずっとご兄弟として、優月さまを守っておられたんですよね? だから今でも、ご兄弟のようにお親しいんですね」

「そう……だね」

 静さんの話を聞きながら、蕩けるような睡魔が訪れるのに目を閉じた。
 夢と現の隙間に、青鷹さんの低く甘い声が「優月」と呼んでくれた気がして。
 夢なのに、嬉しくて少し泣けた。

 会いたいなんて、青鷹さんに行かせた僕が思っちゃいけないのに……。







 誰かの、談笑する声が聞こえる。
 うっすらとまぶたを開くと、視界に昼間の光が入ってくるのに気づいた。
 白くて、鋭さを持った真昼の陽光。

(真昼の……?)

 がばっと起き上がると、隣で眠りについたはずの静さんが布団をごと消えていた。
 今度は静さんがいない!? 
 って、今何時!? 完全に寝坊した。

 慌てて布団を畳んでいると、寝室の襖がすらりと開いて、静さんが顔を出した。
 ちゃんといつもの作業服姿だ。

「おはようございます、優月さま。お疲れがたまってたんですから、まだお休みになっていても良かったのに」

「でももう、お昼近いよね? 早くみんなのところに行かなくちゃ。怪我して帰ってくる人もいるだろうし」

 寝間着から着替えていると「大丈夫ですよ」と静さんが笑った。

「何が大丈夫……」

「先の匣姫さまが、力を放って下さってるんです」

 力を、放つ? 

 静さんが言っていることがよくわからなくて、着替えが済んでから朋哉さんの布団に近づいた。

「朋哉さん……」

 朋哉さんは半身を起き上がらせて、紅騎さんの話にうなずいていた。

 紅騎さんといえば、夕べ遅くに離れの近くを歩いていた姿を思い出す。
 あれはもしかして、朋哉さんに会いに来ていたんじゃないだろうか。

(まさか。変に勘ぐりすぎだ)

 朋哉さんが帰ってきたのが僕にとって、相当に大きなことだったんだろうか。
 起こる出来事のすべてが、朋哉さんに通じているように思えて仕方がない。

 そばに腰を下ろして、いつもの無表情からは到底想像できないような笑みを浮かべている。

 寝る前、静さんとの話にあった、“先の匣姫への想い”。
 それは静さんだけに限らない。
 頭領後継である紅騎さんだって、静さんと同じ想いで、舞台で舞う匣姫を見つめていたに違いない。
 その匣姫が今、目の前に、手の届く距離に在るのだ。

(そりゃあ……こんな笑顔でいるのも当たり前だよね)

 カリスマ性という言葉が浮かぶ。
 匣姫の持つカリスマ。
 きっとこういうことなんだろう。

 朋哉さんは僕が立っているのに気づくと、頷くのを止めて視線を上げた。

「君は、匣宮で会った……」


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あきゅろす。
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