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龍のシカバネ、それに月
4

 むしろ、『会ってしまった』困っているような顔で、僕からついと視線を外した。

「会えないと思ったのに、会いに来てくれたんだろ? 何か用事があったんじゃないの、朝陽?」

 まだ迷うような顔をして、僕に目を合わせる。
 ごめん、と小さな声がつぶやくように言った。

「ごめんな、優月。俺、嘘ついてた」

 叱られる前の朝陽の様子が、あまりにもいつも通りで、不謹慎にもちょっとだけ笑いそうになった。
 南龍後継候補になっても、こういうところは少しも変わらない。
 それを却って愛しく感じる。

「何が、嘘だったの?」

「先の匣姫のことだよ! あれはっ……俺が助けたんじゃなくて……っ……」

 前半を早口に捲し立てて、後半を言いよどむ。
 そんなに僕は怖い兄だったんだろうか、と過らせながら、朝陽の手を取った。

「怒らないから、正直に」

 うん、とそれでも迷った困ったような顔をしてから、意を決したのか目を合わせてきた。

「先の匣姫を北龍から救いだしたのは、久賀なんだ」

「……え……」

 青鷹さん? 
 想像していなかった答えに、僕のほうが驚いて止まってしまう。
 青鷹さんが、先の匣姫、朋哉さんを北龍から助けた……。

「な……、え? どういう……」

「俺が久賀に追いついた時、久賀は先の匣姫を抱いて逃げていた。北龍の追手が来ていたんだ。そこで、俺は先の匣姫を託されて、『行ってくれ』って言われた」

「どうして……」

 理由は想像できる。
 一つは朋哉さんの身を三龍に返すことこそが、青鷹さんの目的だったこと。
 もう一つは、朝陽。
 援軍として追いついた朝陽が、僕の弟だったから帰そうとした……?

「追手が見えたのに、久賀と東龍の隊だけ置いてけねーし、俺、一応援軍だし。途中まで一緒にやってたんだけど。最後、久賀のバカの手で飛ばされて、強制的に戻された」

「……それで、青鷹さんは……」

「わからない。……ごめんな、優月」

 心底申し訳なさそうに言う朝陽に、首を横に振った。

 青鷹さんは北龍のいる場所まで行った。
 そして少なくとも、朝陽が帰る時点までは無事だった。
 それがわかったことだけでも、大きなことだ。
 朝陽がこうして言いにきてくれなかったら、わからなかったこと。

「ありがとう、朝陽。教えに来てくれて。僕も起きてて良かったな。朝陽に会えた」

「優月……」

 腕を伸ばして抱きしめてくる。
 やっぱり朝陽だ、と安堵する。
 朝陽の肩に鼻先を寄せて、ゆっくりと瞬く。

 青鷹さんは、帰ってくる。
 そう信じたい。

「それで優月はこんな夜更けにうろうろして、何やってんの?」

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