龍のシカバネ、それに月 7 「――っ。蒼河さっ……」 蒼河さんの手が激しく追い込んでくるのを、どうすることもできない。 背筋に突き抜けるような快感と真っ白な正気が同時に堰を切った。 喉が、抑え込まれた悲鳴のような音を鳴らして、小さな痛みを生んだ。 被さってくる蒼河さんの腕が一際強く僕を抱きしめて、震える。 「……は…」 達ってしまった。 力が抜けて畳の上に落ちた僕の上に、ずしりと蒼河さんの体がもたれかかってきた。 涙が浮かびだしているのはなぜなんだろう。 荒い息ごと、蒼河さんを抱きしめると、肩を抱いた腕が緩んでいく。 「……青鷹がいない時にこんなことしてて……おまえ、良いの? 誘ったのは俺だし、薬役を引き受けたのも俺だけどさ」 そんなことを言いながら「……良いか」と自己完結すると、半身を起こした。濡れた手のひらに舌を這わせる。 赤い舌がゆっくり動く後ろで、障子越しの月が揺らめいた。 「甘……、おまえの」 俺が龍で、おまえが匣姫だからか、と続く言葉に、涙がこめかみをこぼれた。 青鷹さんがいない時にこんなことしてて、だめに決まってる。 それでも蒼河さんと抱き合って体を触れあわせるのは、蒼河さんが龍で、僕が匣だから。 龍は無条件で匣姫に惹かれる。 匣姫が誰でも関係ない。 ――指南役はね、大抵は任じないんだよ。匣の匂いが強すぎて、普通の龍には耐えられない。 不思議と今、姿のない珠生さんの言葉が胸に刺さった。 気だるい体を起こして、服を整える。 ――悪い匣姫さまだね。 諌めてくれる珠生さんも、今はいない。 「優月。このまま、俺のそばにいろよ」 蒼河さんが、頬を伝う涙を指で拭ってくれる。 「俺の匣になりな? 俺は青鷹とは違う。全体を見るべき頭領は、自ら前線にでるべきじゃない。そばにいてやる。こんなふうに、独りにはしない」 「……河さんは……」 声が、掠れる。 「蒼河さんはっ……、お父さんの、蒼治さんの遺志を引き継ごうとしているだけじゃないですかっ……?」 顎に触れていた指が、ひたと止まる。 合わせた視線の先に、眉を潜めた強い目があった。 「何……?」 唾液が下る音がする。 「蒼治さんは、占いで匣姫の配置先に選ばれていながら、あと一歩のところで亡くなってしまった。その無念を晴らそうとしているだけで――」 顎を掴まれて、そのまま壁に押しつけられた。 ずいと顔を近づけてくる蒼河さんの表情が、さっきとまるで違っていて。 「本気でそんなこと思ってんの? 俺が親父のことにこだわって、匣姫を手に入れようとしているって?」 いつもと違う表情を浮かべる蒼河さんを前に、緊張して声が出ない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |