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龍のシカバネ、それに月
5

 襖のすぐ目の前に、薄い紅色をベースに描かれた梅花が、几帳の中に咲いていた。
 薄い布地でできた几帳は暑い日に使うものなのか、向こう側の景色が透けて見えている。
 布団に横たえられた朋哉さんと、そばに静さんが正座しているのがわかった。

 僕が几帳から顔を覗かせると、静さんはほっとしたような顔をして、立ち上がった。

「優月さま、良かった。一人ではどうしてさしあげたら良いかわからなくて…… あっ、……紅騎さまっ……」

 後半は、くるはずのない人の姿に驚いて出た声なんだろう。
 軍議と聞いていたのだから、驚くのは無理ない。
 まさか南龍後継である紅騎さんが、軍議に出席しないだなんて、誰も思わない。
 静さんは慌てたような仕草で後ろに控え、紅騎さんに場所を譲った。

 僕もその背後に従おうとして、立ち止まった。
 几帳の向こう側、出入口から名前を呼ばれたのだ。
 怪我を負った龍が運ばれてきたから、力を分けてほしいという話に、すぐ退室した。
 その後、眠る先の匣姫と紅騎さんの間に何があったのか、僕には知るよしもない。








 治療を必要とする龍たちが眠る部屋から出たのは、すっかり日が落ちて辺りが暗くなってからだった。
 そこここから安らかな寝息が聞こえて、ほっとする。

 龍たちの体が安定したということと、もう1つ。
 今日も、匣姫としてやっていけたということ。
 作業に追われていれば、青鷹さんのことを悪いほうに考えなくて済むのもありがたかった。

(まだ、北龍のそばにいるのかな……)

 首を横にふる。眠っているとはいえ、龍たちの前で心配している顔はできない。でも。

(朋哉さんは帰ってきた)

 だから、もう。

(青鷹さんだって、帰ってきて良いんじゃないかって)

 追いかけて、と言ったのは僕なのに……そんな勝手なことを思う。

 小さな軋み音を立てて板の廊下を進んでいると、月明かりの下に影が見えた。
 揺れる吊るし灯篭に火が震えている。
 火の灯りに頬を照らされて、立っていたのは蒼河さんだった。

「すみません……毎晩、来てもらって。でももう、自分で──」

 台詞を千切って、蒼河さんは「良いよ」と言った。
 手を差し入れたポケットから、小瓶を出してくる。

「俺は、青鷹の代わりだからね。東龍の前でも、優月の前でも」

 苦笑と一緒にこぼれる台詞に「違います」と返すと、蒼河さんは驚いたように目を見開いて、僕の腕を引いた。
 板の廊下を滑るように進んで、一枚の障子を開き、僕を押し入れる。
 閉めた障子に、ぼんやりと月が透けている。それを見ながら、噛みつくような口づけを受け入れた。

「……それって、俺は『青鷹にはなれない』って言ってんの?」

 僅かに離れた唇が、不快そうに言う。

「そういう意味じゃ……」


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