龍のシカバネ、それに月
6
こめかみに軽く唇を掠めて。
玄関先で口うるさく呼んでいる紅騎さんに応えてから、二人はマンションを出て行ってしまった。
(どうしよう)
どうしようも何も、影を抜くしかない。
かさ、と音を立てる紙袋の中身を覗きこむ。
「――――っ!? ……っ!!」
綺麗な箱に入った新品らしいそれは、多分っ……
(“大人のオモチャ”というヤツじゃ……?)
もう1つの箱にはボトルが入っている。
中身は多分、指南の時に青鷹さんが使っていたアレに見える。
最後に、薬。
これは見覚えがある。
匣の匂いを抑える薬だ。
(確かに、匂いを充満させて負傷した龍の前になんか行けないっ……けど)
がさっ、と紙袋を握りしめて、派手な音が鳴った。
顔に熱が上がってくるのが自分でよくわかる。
変な汗まで浮かんでくる。
(自分の体のことぐらい、自分ででき、なきゃ)
できるの!?
半分泣きそうになりながら、ちらりと携帯を見る。
――できなかったら、手伝いに来てあげるから。携帯で呼んでね♪
「…………」
灰爾さんに言われて以来、電源を入れるようにしているそれを使えば、今出て行ったばかりだけど帰ってきてくれるかもしれない。
「皆、忙しいんだからっ……青鷹さんだって」
僕が「朋哉さんを助けて」って言ったから……?
「深追いするな」と言った灰爾さんを振り払って、行ってしまったのは僕のせいで?
(珠生さんに会わせてあげたいと思ってしまった。それから、“カゲトキ”)
あんなにおびえていた朋哉さんを、あの人のそばに置いておくことなんてできない。
でも、僕はそう“思っただけ”“言っただけ”。
結果的に青鷹さんを追いたて、朝陽や多くの龍を北に送らせてしまった。
紙袋をぎゅっと握る。
朋哉さんは遠く離れた場所からも珠生さんを守っていたのに。
同じ匣姫と呼ばれる身でありながら、僕は……。
首を横に強く振る。
――さっさと元気になって、役に立て。
あの紅騎さんにそう言ってもらったんだ。
自分でできそうなことは自分でしないと……。
「さしあたっては、これ……だよね」
紅騎さんがくれた紙袋から取り出した箱に貼られた封シールに爪をかけるのに、それから30分はかかった。
小さな、水音。
指にローションが絡む音だ。
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