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龍のシカバネ、それに月
4

 紅騎さんのしていることの意味がわからなくて顔を上げると、いきなり唇を合わせられた。

「!?」

 見開いた視界には、目を閉じた紅騎さんの綺麗な長いまつげが閉じているのが見える。
 熱い舌が、熱で乾いた唇を撫でていく。
 柔らかなその感触にぞくりと腰が震えて、僕はたまらず紅騎さんのシャツの肩口を握りしめた。

「んっ…ふ…、やめ」

「……影、さっさと」

 え?
 合わせた唇の隙間から、紅騎さんは言葉を溢した。
 言ってることの意味がわからないまま、舌で口腔を撫でられて熱くなった唾液を口の端を流れ落ちていくのを感じた。

「紅騎! 優月ちゃん、熱あんだぞ。何やって……!」

 背後から、灰爾さんが紅騎さんを剥がしてくれてようやく唇が離れた。
 ベッドの上に座ったまま、脱力しそうになって、腕で支えた。

「迷惑……なんだよ」

 灰爾さんに腕を取られたまま、顔を熱で上気させた紅騎さんが眉を吊り上げて僕を見ている。

「迷惑なんだよ。影を体に残して熱なんか持って。“匂い”が増幅してんの!」

「紅騎。それ、優月ちゃんが自分でやってることじゃないんだから。完全に八つ当たりだろ」

 灰爾さんの取り成しに、紅騎さんはじろりとにらみ返している。

「よく我慢して看病なんかしてたね、灰爾」

「臥せってる優月ちゃんと2人きりで、俺がちゃんといい子にしてたと思う?」

 笑う灰爾さんに「えっ」と返すのは僕だけで、紅騎さんは白けたような顔で見返すだけだった。

「だいたいね、ずっと聞こうと思ってたんだけどさ。
紅騎と優月ちゃんは従兄弟同士になるわけだろ? 母親同士が姉妹なんだからさ。なんで優月ちゃんのこと、南龍屋敷で面倒見ないの?」

 灰爾さんが一息に言ってから、「あっ」とこぼして僕を振り返る。
「西が優月ちゃんのこと面倒見たくないって言ってるわけじゃないよ!? むしろ逆!?」と慌ててつけ加えてくれるのを、僕はうん、と頷きながら、紅騎さんを見つめていた。

 紅騎さん(と朝陽)のお母さん 茜さんにはまだ会ったことがないけど、たしか朝陽も言っていた。
 茜さんと母さん 保村桜子は姉妹なんだって。
 世話になる側の僕が思うのも図々しい話だけど、東や西にいるよりは、より血縁関係のはっきりしている南に身を置くのがずっと自然だ。

 紅騎さんはちらりと僕を見てから言った。

「俺もそう思うよ? 南に置いて俺が指南したほうが、青鷹のぬるいやり方より、ずっと早く優月を匣姫として開発できると思うし。
むしろ、南の若い衆総勢でやれば、力の分配もできて一石二鳥だと思ってるし、頭領もそれでいいって言ってるんだけど」

「!?」

 考えている方向性が全然違う紅騎さんの発言に、びくっと体が凍った。

(今、なんかすごいことさらっと言われたような気がするっ……『南の若い衆総勢でやれば』って何をっ……)


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あきゅろす。
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