龍のシカバネ、それに月
6
気持ち悪い。
喉が苦しい。
「このまま臓器を破って、全部中を混ぜてやろうか……」
足をばたつかせて、彼を蹴ろうとするのに、確かに視界では彼に当たっているのに感触がまるでなかった。
それなのに、喉元を捕らえる手の感触は如実に伝わってきていて、視界をかすませる。
――影を挿れられたままにしていたら、君も先の匣姫みたいになっていたかもしれない。
前に影を挿れられた時、そう言って「助かって良かった」と言ってくれたのは珠生さんだった。
あの時、どんな思いで良かったと言ってくれていたのか。
「ひっ…ぅ……」
腹の中でゆっくりと動く影を頭で追ってしまう。
次第に熱を帯びる下腹と、喉を絞められる酸欠とで頭が朦朧としてきた。
「おまえは、本当なら最初から北のものだ」
彼の――北龍の笑みを見たその後ろに、一瞬龍の鱗を見た気がした。
閃光が辺りを貫き、夜空に匣宮の廃墟が浮かび上がった。
まるで黄金の舞台だ。
その瞬間、影でできた北龍は腕に朋哉さんを抱いたまま、夜の闇に跳んだ。
光を避け、闇に溶ける。
生身であったはずの朋哉さんまでもが、それに従って姿を消していく。
「げほっ……はっ…」
絞められた喉が開放されて、急に入ってきた空気に耐えられなかった。
胃の内包物が逆流して、膝をついた廊下に吐き出してしまう。
まだ腹が痛い。
喉も腹も焼けつくようだ。
「青鷹! 深追いするな!」
灰爾さんの声だ。
そういえば一瞬見えた龍の鱗は白く見えた。
吐く息は黄金。
白い、西の龍。
「優月ちゃん!」
駆け寄ってきてくれる灰爾さんに、空を指した。
「朋哉さんが……先の匣姫が、いました。生きて……北龍とっ……追って、取り戻さないと!」
朋哉さんが生きていた。
その言葉を耳にして、灰爾さんははっとしたように振り返ってから、僕に向き直って、きゅっと唇を締めた。
「今の匣姫である優月ちゃんを取られないようにするのも、大事なことでしょ」
ごめんね、と言ったのと同時に抱き起こされて、下衣を膝まで下ろされて、いきなり指を挿れられた。
「……っひ…や、痛っ…」
影で濡れた後孔は熱を持って腫れているようで。
灰爾さんの指が遠くで動いているように感じた。
「優月ちゃん触るの、初めてだからな……俺で取りきれるかどうか……」
耳元に聞こえる灰爾さんの声が遠い。
ヤバい。
気を失いかけている。
あの雑木林の時と同じだ。
「青鷹……さんは? ……っん…っ」
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