龍のシカバネ、それに月
4
僕は先の匣姫には、夢の中でしか会っていない。
それだって、僕が気にしているから見るってだけの、ただの夢に過ぎない。
あとから知る現実との不思議な一致があるから、妙に真実味を帯びたように思える、夢。
じゃあ、さっき見たものは?
起きているのに見た、白昼夢?
(幽霊……とか)
嘘だ。
先の匣姫の生死はまだわからない。
幽霊だなんて。
懐中電灯の光を泳がせる。
暗がりに浮かびあがるのは、ただの廃墟だ。
きし、と足元が鳴る。
(見間違いかな)
それが多分一番有力。
呪われた匣宮だと言われていても、何があるわけでもない。
実のところ、期待していたのだ。
三龍会談で使った、東龍屋敷の地下シェルター。
あんな感じのものが、匣宮にも存在していたんじゃないかって。
もしかしたらそこに、歴代を綴った書類とか……もっと言ったら、生き残りが隠れ住んでいたりとか。
足元が鳴っている。
風が出てきたのか、廊下に吊るした灯籠が小さく揺れて、飾り同士がぶつかりあう儚い音がした。
揺れる灯籠が、時おり北龍の寄越す影に見える気がして、音が鳴るたび、そっちへ懐中電灯の光を向けた。
やっぱりただの灯籠だ。
「誰を、探しているの?……」
全身が、硬直した。
誰もいないはずの呪われた匣宮。
ここにいるのは、僕だけのはず。
声のするほうに振り向きながら、懐中電灯を向けた。
黒いシャツに黒いスラックス、そして朱色の打ち掛けを肩からぞんざいに引っかけた――父さんの写真そっくりの、
「……朋哉さん、ですか?」
生きて?
光に、眩しそうに目を細める朋哉さんの手をがしっと握る。
生身だ。
体温がある。
幽霊なんかじゃない。
僕の手を外して、朋哉さんは顔を近づけてきた。
じっと僕を見つめている。
その顔色は蒼白で、しっとりと汗を浮かべている。
「君は、月哉……なわけない。月哉は死んだ。君は誰? ……でも、知っている気がするな……」
懐中電灯の光を退けたのにまだ眩しそうに目を細める朋哉さんに、名乗ろうとして、肩を掴まれた。
つらそうな表情に、汗が滲んでいる。
「碧生を、どこにやったの? 碧生がいない、見つからない……」
「碧生……珠生さんは――」
多分、貴方を探しに行った――そう言おうとしたのに、朋哉さんはその場に膝をついてしまった。
くぐもった息のリズムが荒い。
「朋哉さん? 大丈夫ですか? 苦しいんですよね? 今、誰か呼びますから」
ポケットから滅多に使わない携帯を取り出して電源を入れていると、足元にいる朋哉さんが腰にすがり付いてきた。
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