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龍のシカバネ、それに月
3

 北龍に無理矢理さらわれた朋哉さん。
 この戦で、蒼治さんは亡くなり、東龍後継は、珠生さんになった。

「託占……」

 ふらふらする懐中電灯の光を眺めながら呟く。
 もしかしたら全部、託占がなかったら上手くいったんじゃないの? 

 一人目の匣姫 父さんは母さんが好きだった。
 だのに託占が西龍 雪乃さまを指定したから、それが嫌で駆け落ちしてしまった。

 二番目の匣姫 朋哉さんにしても、珠生さんを好きだった。
 珠生さんもずっと朋哉さんに心を残している。
 でも託占がまた邪魔をしていて、その時は蒼治さんに配されることになっていた。

(先の匣姫の場合、駆け落ちしたわけじゃなかったから、託占が原因とも言えないのか)

 何にしても、北龍がすべてを壊しにかかるほど怒りを抱える理由がわからない。
 北龍はそこまでして匣姫が欲しかったのか? 
 だとすれば、先の匣姫 朋哉さんを手に入れた時点で念願は成就している。
 もう匣宮も三龍もどうでもいいはずだ。

 それなのに今なお破壊活動を続けている理由は何なのだろう。

 託占……青鷹さんと僕の場合は? 
 今は託占そのものがない。
 誰に邪魔されることもない。
 それでも、一緒にいることはできない。

 西にも南にも、匣姫を手に入れる権利があるからだ。
 彼らはその権利を放棄するつもりはなさそうで。
 匣姫本人に選ぶ権利がないのが通例で。

(今は逆に、託占があればこの膠着状態が動き出すっていうことなんだよね。皮肉なことに)

 託占をやっているのは誰なのかと聞くと、青鷹さんに「匣宮だ」と返された。

 匣宮、壊滅した匣姫の故郷。
 今はもう誰もいない。

 匣宮を捨てた父さんが亡くなっている今、生き残りは僕だけ。
 ということは、僕に託占をくれる人はいないってことだ。

 だいたい託占を受けて、望まない結果だった場合、どうなるの? 
 西とか南とか、青鷹さん以外の場所だったら? 
 それだと父さんや先の匣姫と同じことになる。

「八方塞がりじゃないか……」

 もういいじゃないか? 
 占者がいないんだから、テキトーで。
 ……てなわけにも行かないのか。
 西も南も匣姫を欲しがっている。

(匣姫を、だ)

 僕を欲しがってくれているのは、青鷹さんだけだ。
 過去、龍たちはなぜこんなしきたりを作ったのだろう。
 匣姫も心を持つのだとは、誰も思わなかったのだろうか。

「えっ……」

 長い長い廊下の角を曲がって行く赤い裾布。
 慌てて懐中電灯を向けるも、もうそこに色はなかった。

(今、匣姫が舞う時に着てた、朱色っぽい裾が見えた)

 立ち上がって、きしきしと鳴る廊下を歩き進む。
 さっき朱色が見えた辺りまで。


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あきゅろす。
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