龍のシカバネ、それに月
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「匣宮はすぐさま、月哉さんの弟である朋哉さんを匣姫に据えて教育したそうだが、次の託占はそれから8年後……つまり、今から12年前」
次の託占は、朋哉さんの配置先に西龍頭領 雪乃さんではなく、次期東龍頭領 蒼治さんを選んだ。
結局、その時も横からかっさらう形で北龍が朋哉さんを連れ去った。
匣姫を手に入れられないジレンマは20年の歳月、三龍のどこでもとぐろを巻いて燻っている。
(そんな今、僕が青鷹さんを好きだからって理由で東に決めることは到底できない……)
今更、青鷹さんが言っていることが理解できた気がした。
ドアのノブに手をかける。
鍵はかかっていないのに、青鷹さんがもたれている重みで開かない。
「青鷹さん。開けさせて下さい」
「無理だ。開けたら何するか、自分でわからない」
そんな風に言われると、嬉しくて「そうして下さい」と言いたくなる。
「抱きつきたいです」
「……だめだ」
ドア越しに、僕も背中をつけて座った。
ドアの向こうに青鷹さんの体温がある。
「好きです。青鷹さん。嘘なんて、嘘です」
そのうち必ず、僕を貴方の匣にしてください。
そう続けるのに、珠生さんが言ったとおり真面目すぎる僕の好きな人は「凡例では」と固い話を口にする。
今の流れじゃ、凡例なんてどうでも良いのに。
「『必ずいつかそうするよ』って言ってくれれば良いのに……」
憮然として言うと、「そんないい加減な返事はできない」と返ってきた。
呆れて、笑ってしまった。
(本当に僕のこと、好きなのかな……?)
そうだ。
こんな人だ。
僕の好きな人は……こんな人だ。
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