龍のシカバネ、それに月
7
約束?
何のことを言っているのか、僕には疑問だったけど、口を挟むようで差し控えた。
珠生さんは、青鷹さんを優しく見返して、うん、と頷いた。
「忘れてないよ。青鷹も、絶対に忘れるな。井葉珠生との約束を」
そこまで言ってから、眠そうに緩みかけた目で僕を見ると、にこっと笑った。
「優月くん……匣姫。青鷹をお願いします。こいつは堅物で融通が利かないけど、真面目で一途で……
…………」
話の途中で、すう、と寝息が聞こえる。
「? 碧生さま? ……話してる途中なのに、どうして? 大丈夫なの?」
後半は青鷹さんに問う。
「中和薬が効いてきたんだろう」
言いながら、青鷹さんは僕の体をベッドから引っ張りあげて腕に抱いた。
「あ、歩けますっ」
青鷹さんがきょとんとした顔で「達ったばっかりなのに?」と問う。
ぶわっと顔に熱が上った。
「なっ……なんで、そんな恥ずかしいこと言うんですかっ……!」
それでも下ろしてくれないまま、廊下に出る。
似たようなドアがずらりと並ぶこのデザインには覚えがある。
やっぱりここは、久賀の家だ。
それをすたすた進む青鷹さんの肩に抱きついて、鼻先を埋める。
これから言うことの、顔色を知られないために。
「……次期東龍頭領になったんですか?」
ああ、とぶっきらぼうに却ってくる。
「……僕を連れに来たのに、母さんと一緒に仲間の龍を追い返してくれたって、本当ですか?」
それにはややあってから、ああ、と返ってくる。
「桜子さんやおまえが、あんな笑顔で暮らしてるのを見たら、連れていくことなんてできなかった。せめて、どうしようもなくなった時までは……」
どうしようもなくなった時。
つまり、母さんが亡くなってしまった時。
だから母さんが亡くなってしまった時、青鷹さんは一番にそばに現れてくれた。
「……初めて現れた時『匣宮優月か?』って聞いたのに。初対面じゃなかったんだね?」
「桜子さんがどの程度記憶操作しているかわからなかったからな。あの人もあの人だ。『頼む』と言っておきながら、優月から俺の記憶を消しちまって、やりにくくて仕方ない……」
母さんが青鷹さんに、僕のことを『頼む』って言ってたんだ。
それほど、青鷹さんを信頼していた。
青鷹さんは、母さんと朝陽とのささやかな生活を守ってくれていた。
「…………。
僕に“首ったけ”って本当ですか?」
「…………」
返事がない。
「……珠生さんとシテた時に、部屋に入ってきたのって……」
黙れ、と短く返ってくる。
部屋のドアを開けて、体を下ろされた。
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