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龍のシカバネ、それに月
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「ぼ、くはっ……覚悟しましたからっ……」

 まだ赤い目もとを緩めて、碧生さまは僕の髪を撫でてくれた。

「せっかく優月くんが覚悟してくれても、青鷹は覚悟しきれなかったみたいだし……」

 碧生さまの言葉に、うつむきかげんでいた青鷹さんの顔がぶわっと赤く染まった。

「それはっ……」

「残念だけど、私も次期東龍頭領に戻るつもりはないんだ。力のない龍が、いつまでも指導者の座についているのは、皆にとって良いわけがない。指導者には力がなければ」

「それは! 優月が碧生さまのそばにいれば!!」

 今こんなことだけで優月くんが気になって部屋に飛び込んでくるのに? とぼそっと言われた碧生さまの言葉に、青鷹さんは言いかけたセリフを飲み込んだみたいだ。
 ついでに僕もうつむいてしまう。

「青鷹。会談で、次期南龍が言ったことを覚えているか?」

――力のない龍に匣の力を使うなんて意味あるの? 力のある龍を増強することのほうが合理的だと思うけど。

 紅騎さんはそう言った。
 碧生さまはベッドの中で息を吐きながら、「私もまったく同意見だ」と言った。

「あの夜、朋哉がいなくなったあの時。あれから私の力が消耗しはじめたことを知っていた。だから私は、私の代わりに東龍を担う龍に、匣宮の生き残りを捜索させた。いずれ、匣宮の生き残りが東龍に力を貸してくれるように」

 それは。
 元々、12年前から青鷹さんに東龍を継がせるつもりで。

(僕に、出会わせた……)

 碧生さまは苦笑を浮かべた。

「その時は、匣宮の生き残りは月哉さんだと思ってたけどね。まさかこんなにちっちゃ可愛い匣姫が生まれてて、探しに行ったはずの青鷹が首ったけになって、仲間の龍まで追い返してしまうなんてこと、私にも想像つかなかった」

(……“首ったけ”っ……。青鷹さんが、匣姫捜索に来た仲間の龍を追い返した……?)

 そういえばさっき、僕を抱きながらも碧生さまはそんなことを言っていた。

“仲間の龍”とは同じ東龍で、僕を探しに来ていた人たちのことだ。
 朝陽もそんなことを言っていた。
 僕を連れて行かせまいと母さんが龍と戦っていた、と。

(でも、青鷹さんはどうして追手の龍たちを追い返して? 青鷹さんも僕を連れに来たんじゃ……)

「碧生さま、……っ」

 真っ赤になった青鷹さんが、碧生さまの台詞をちぎるようにして声を挟んだ。

「青鷹。もう“碧生”じゃない。東龍から新たに“珠生(たまき)”の名を賜った。敬称も必要ない」

 そこまで言ってから、「あ」と思いついたように口を開いた。

「敬称が必要なのは青鷹のほうだろ。優月くん、青鷹はね。あの後、正式に私に代わって、次期東龍頭領に任じられた」

「……え……」

 青鷹さんを見ると、まだ納得できないことがあるみたいな顔をしていて。
 反して、碧生さまは――珠生さんは、何かを削ぎ落としたようなすっきりした穏やかな顔をしている。
 それを咎めるような目をして、青鷹さんは碧生さまをじっと見据えた。

「碧生さま。俺との約束は――」

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あきゅろす。
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