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龍のシカバネ、それに月
5

 腰がひくついて止められない。
 震えながら力の抜けていく体を、ベッドに横たえた。

(……青鷹さんが見てる前で、碧生さまの口の中に達ってしまっ……)

 嫌だ。
 なんで。

 上掛けに手を伸ばして体を隠す。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、頭から被りたいくらいだ。

 むくりと半身を起こしてまだ荒い息をこぼす碧生さまが、青鷹さんを振り返って小さく笑った。

「優月くんを泣かしたら、絶対に入って来ると思ったよ、青鷹」

 ずっとドアの外にいたんだろう? と続く言葉は、僕ももしかしたらと思っていたことだ。

「…………」

 目元を赤らめて、青鷹さんは碧生さまに視線を合わせた。
 多分、図星を突かれて焦っている顔。
 でもそんな青鷹さん以上に、僕の顔は赤くなっていたと思う。

(あれからずっと外にいたって……碧生さまにされてたこと全部聞かれてた……てこと……)

 最悪だ。
 まともに青鷹さんを見られない僕と違って、青鷹さんはまだ冷静に見える。

「碧生さま。体は大丈夫なんですか」

「自分で私に一服盛っておいて、おまえが『大丈夫か』なんて聞いてくるのか? 酷いな」

 体を仰向けに倒して、大きな息をつく。
 腕を僕の腰に回して、ちらと青鷹さんを見返った。

「青鷹、中和剤。用意してくれ。息が苦しい」

「はい、ここに水と。……すみませんでした」

 受け取った粉薬をさらさらと口に含み、「ん」と顎を突きだす。
 そんな碧生さまを見て、一瞬僕に目をくれてから、青鷹さんはグラスの水を口に含んだ。

(っ!? な……、え!?)

 仰向けに寝ている碧生さまに、口移しで水を含ませる。
 青鷹さんの肩に腕を回して、合わせそこなった唇から水をこぼして筋を描かせる。
 ごく、と喉を下る音が聞こえて、青鷹さんは屈んでいた半身を起こした。

「はぁ……これで、落ちついてくるかな」

 まったくとんでもないことをしてくれる、と呆れたように言う碧生さまに、青鷹さんは少し落ち込んだみたいに視線をうつむかせた。

 こんな青鷹さんを見るのは初めてだ。
 青鷹さんに怒られることはあっても、青鷹さんが怒られるところを見る機会なんてない。
 ちらちらと盗み見していると、青鷹さんに唐突に睨まれた。

「そんなに、俺に力を戻してほしいと思ってくれたのか。大事な優月くんを譲ってまで」

 泣いて嫌がってたのに薄情な指南役だね、と笑う碧生さまに恥ずかしくなる。

 そうだった。
 僕は会談で、碧生さまの力を戻すために寝所に行く話を聞いて、混乱して泣いてしまったのだ。

(なんか、今更それが恥ずかしい……っ)

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あきゅろす。
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