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龍のシカバネ、それに月
10

 2人っきりの兄弟。
 たった1人の弟。
 僕がうんと大事にして、守ってあげなくちゃ。
 そう思ってきたのに。
 朝陽がそばにいないだけで、不安でたまらなかった僕は……やっぱり逆に、守られてきたんだろうか。

「俺、これ好き……」

「えっ?」

 唐突に移った別の話題に、ついていけなかった。
 朝陽は濡れた僕の肩に頬をすりよせてきた。

「こうやって、優月がぎゅってしてくれて、ぽんぽん叩いてくれるの。なんか安心する」

「……そっか」

 良かった。
 些細なことでも、僕が朝陽に何かしてやれることがあるなら、嬉しい。
 いくらでもこうしてあげる。
 そんなことを思って朝陽の肩に手を触れていると、駅校舎の入口に人影が伸びた。

「久賀さん?」

 呼びかけに、腕の中にいた朝陽が体を起こした。
 立ち上がって、振りかえる。

「優月はここにいて。見てくる」

「僕も行くよ」

 雨は、霧雨になっていた。
 視界にかかる薄いカーテンのようなさらさらとした雨の中、久賀さんは車にもたれて立っていた。
 スーツにコート。
 一瞬、息を飲んだ。
 いつもの姿。
 でもあちこち破れて、血が滲んでいるのが見える。

「久賀さん……それ、その傷……あの人が?」

「大丈夫。乗って。朝陽も」

 うん、と後部座席に乗りこんでいく朝陽の背中を見てから、隣に立つ久賀さんを見上げた。
 久賀さんも僕を見返してくる。
 苦しそうな、表情をして。

「優月……無事で良かった」

 ほっとしたような顔が、ひどく疲れているように見える。

「もしかすると今、僕、貴方の役に立ちますか?」

「えっ?」

 驚いている久賀さんの手を、僕の腕に導いた。
 蒼河さんが僕にしていたように。

――流れこんでくる。

「僕にはわからないけど、流れて行ってますか?」

 久賀さんは苦笑を浮かべてから、僕を抱きしめた。
 襟元にうずめた口元から、くぐもった声が「ありがとう」と言う。
 時間にして10秒ぐらい、そうしていて。

 車の中から朝陽がじいっと睨みつけてくるのに気がついて、久賀さんに声をかけた。

「そろそろ……」

「あ、ああ。悪い。ぼんやりしてた。
 ……優月、首のそれ」

 久賀さんが言いにくそうに、自分の襟元を指した。
 さっきまで、久賀さんが顔をうずめていた、僕の。
 かっと頬に熱が上がった。
 蒼河さんに唇を押しつけられた場所だ。

(なんで? わかるの?)


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あきゅろす。
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