君の終焉を
1
勢いよく開けた扉の先。
真っ先に目に飛び込んできたものは、
あまりにも変わり果てた、愛しき人の姿だった。
「由…貴…?」
震える足でゆっくりと彼に歩み寄る。
ノイズの中聞こえる弱々しい呼吸。
無数の傷、血の滲んだ包帯、そして体に繋がれたいくつもの管。
その全てが事故の悲惨さをものがたっていた。
連絡があったのは一時間ほど前。
自動車との交通事故で大怪我を負い病院に運ばれたと聞いた。
しかし、予想以上に残酷な現状に頭の中が真っ白になる。
端の切れた唇は薄紫に変色し、傷だらけの肌は透き通るほど青白い。
「由…貴…?」
呼びかけに反応し、微かに開く瞳。
「ゆぅ…ちゃ…ん?」
「由貴…っ!」
「ゆう…ちゃん…」
嬉しそうに唇の端がピクリと反応する。
しかし焦点はあっておらず、
よく見ると目の中が赤く染まっていた。
「由貴…目が見えないのか?」
コルセットで固定された首が、微かに縦に動く。
「ごめ…ん、…僕、…死ぬみ…たい…」
「馬鹿っ!…死ぬわけないだろ…」
彼の手をそっと掬い、自らの頬に重ねた。
いつもなら暖かいはずの掌が、今は別人のもののように冷たい。
「いままで…あり、がとう…」
「何言ってんだよ…これからがあるじゃないか」
しかし、由貴は、弱々しく首を左右に振り、儚げに微笑むだけ。
「ゆ……ちゃ…」
少なくなる、心拍数。
浅くなる、呼吸。
そして、薄れてゆく体温。
「やだ…やだよ由貴…」
俺を置いていかないで。
死ぬなんて言わないで。
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