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その声の正体は、いつも瑞穂ちゃんの周りにいる女の子たちのうちの一人だった。
「瑞穂が!!」
その言葉に、千裕の顔色が変わる。
「階段から落ちてケガを……!」
それは、一瞬で。
でも私から見たら、まるでスローモーションのようで。
私の手から千裕の手が離れるのを、私は呆然と見ていた。
「ち、ひ……」
言葉に、ならなかった。
千裕はまるで、私のことなんか忘れてしまったみたいに。
私が初めからいーひんかったみたいに、階段を駆け下りていった。
考えてみれば、おかしなことはたくさんあって。
なんで、千裕の居場所がわかったんか、とか。
なんで、千裕を呼びにきた女の子が、私を見てニヤッて笑ったんか、とか。
やけど、千裕はそんなことなんか全然気づかずに走っていって、もうその背中は私には見えへんところにあって。
私は何が何だかわからなくて、ボーっと突っ立ってた。
突然、朝のあの言葉が頭に浮かぶ。
『千裕はね、結局私を選ぶの』
そういう、こと……?
さっき、千裕は私を「好き」やって言ったのに。
なん、で……
私は無意識に、ケータイを取り出して、通話ボタンを押していた。
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