15
走って走って
自分が今どこにいるのかもわからんくて
周りはやけに静か。
ただ、自分の荒い呼吸しか聞こえなかった。
その時。
私だけの世界に、音ができた。
「まひる!」
誰かの、声。
手を掴まれたと思うと、すぐ横の空き教室に入れられて、ギュッと抱きしめられた。
「まひる……」
「千、裕……」
それが柳瀬千裕やと認識した瞬間、取り戻す
色
音
温もり
感情
やっと涙が、溢れてきた。
「ち、千裕……」
「一人で逃げんな。逃げたい時は俺が一緒に逃げてやるから……」
柳瀬千裕の荒い呼吸
言葉
心臓の音
全部が、私の心を溶かしていく……
「ショックだった?」
「うん……親じゃないってこともやけど、一番ショックなんは、私のせいで兄ちゃんといちこさんが……」
「まひる、バカだな……」
柳瀬千裕は少し笑った気がした。
「こんな時ぐらい、自分のこと考えろ…」
「う、うぅ……」
柳瀬千裕の腕の中は、妙に心地よかった。
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