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「ごめんね、千裕……」


少し腫れてしまった頬に触れると「いてっ」と、顔をしかめる。


兄ちゃんは、今ルンルンでお皿を洗っている。


なんでルンルンなんかって言うと……


バキッ!と嫌な音をたてて千裕が倒れた後。


「ちょ、兄ちゃん!」


急いで兄ちゃんを見ると、兄ちゃんは自分の右手を見て呆然としていた。


あ、ほんまに殴ってしまった……みたいな。


そんな兄ちゃんを見て、私の中の小悪魔が目覚めた。



「兄ちゃん……千裕のこと殴っちゃったね。私の、好きな人を」


兄ちゃんは、ビクッと体を揺らした。


「でも、私兄ちゃんのこと好きやで?……たとえ、私の大好きな人殴った兄ちゃんでも」


「………っ」


私の失言のせいで千裕が殴られたことは棚にあげて、私はまくしたてた。



「はぁ、ここで千裕に謝ってくれたらもっと兄ちゃんのこと好きになるんやけど……」


その言葉に、兄ちゃんは驚くほど反応した。


「千裕、ごめん!」


そう言って、千裕を起き上がらせる。


そして、椅子に座らせると私に向き直った。



「どうやまひる!これで兄ちゃんのこともっと好きになったか?!」


「う、うん……」


呆気にとられる私の返事に満足そうに笑うと、兄ちゃんはスキップでキッチンに向かった。



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