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ハルノヒザシ
蘇るは悪夢
以前、前田と同室になる前。部屋に戻るのが嫌だった。
 別にあいつらが怖かった訳じゃないし、先に部屋に入ってしまえば、あいつらなんか力づくで追い出してやるのだけれど。俺が後から帰った時に、見たくもないその場に、鉢合わせるするのがたまらなく嫌だった。
 いちいち気にするのはにするのは癪だったけれど、教室であいつらの姿が見えなかったときは、図書館と食堂でギリギリまで時間をつぶしてから、憂鬱さで足を引きずりながら帰った。友達なんてのが居れば、そいつの部屋に避難させてもらうこともできたろうけど。友達なんて1人もいなかった俺は、他に行く場所もなく、頼れる人もなく、最後には自分の部屋に戻るしかなかった。

「おかえり。十夜くん」
「………」
リビングの扉を開けると、既に帰っていた藤堂が、二段ベッドの下に横たわりながら俺を見てにこやかに言った。
 一瞬だけ、今日はその場に鉢合わせしなかったことに、安堵しながら俺は、無言のまま部屋に入ると、手早くシャワーの用意をするため自分のクローゼットに向かう。
「十夜くん、また図書館行ってたの?すごいなあ。また難しそうな本を読んでる」
「触んなよ」
 着替えを用意して、後ろを振り向くと、ベッドから立ち上がった藤堂が、テーブルの上に置いた、俺が借りてきた本をぱらぱらめくっていたので、近づいて行って取り上げる。
 俺より10センチは身長が高い藤堂は、睨む俺を、面白そうに見下ろしながら、にやついていた。
こいつはいつもそうだ。人をくったような態度。その態度の後ろにある、気色悪い欲望。
「やん。十夜くん。今日もご機嫌斜めだな。毎日怒ってて、疲れない?」
「お前がいるからだろ。アイツのとこ行かないのかよ」
「海ちゃんは、今日は違う子のとこ行っちゃったんだもん。僕なら海ちゃんのためになんでもするのに。ああ、寂しい。慰めてよ。十夜くん」
「…死ねよ、マジで」
「殺してくれる、十夜君。思いっきり苦しめて」
 にやつきながらの藤堂のセリフに、瞬間的に頭に血が上るが、必死でこらえて、俺は荒々しくリビングを出た。
「……くそっ」
今年も、これが続くと思うと頭がおかしくなりそうだ。なんで、高校に上がってまでまたアイツと同室なんだよ。段々、薄気味悪さが増してきているし。
(それとも…。俺は、どこへ行っても、ダメなんだろうか……)
 どうしようもないくらい自業自得だが、それでも、誰にも頼れないこの状況は堪えた。
 ここを止めて、じいさんのところに戻ろうとおもったこともあった。ただ、藤堂のことさえ無ければ、ここは、あそこよりは、まだましな場所だった。恐れて避けられるより、存在を気にされないほうが、幾ばくか気が楽だ。そう思うと帰ることもできずに、ただ毎日をいやいややり過ごすように過ごしてきた。そう、今日も。
 もう、藤堂はシャワーを浴びたのだろう。水蒸気が残って生暖かい、シャワールーム。
 ふと、床に目をやると、新しい血痕が数滴、水に滲んでいた。
 いつも傷だらけの藤堂の身体。藤堂の血。その血の赤さは、俺にまた、思い出したくもないことを思い出させる。

半年前。この部屋で起こった。俺のトラウマ


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あきゅろす。
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