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ハルノヒザシ
3.(春日視点)
俺が風邪をひいて二日寝込んだ後、次は三好が交代するように熱を出した。
 俺が寝込んでいる間、一生懸命看病してくれた三好に思いっきり風邪をうつしてしまった俺は、週末に約束していた予定をキャンセルし、ずっと三好の傍についていた。
 俺が風邪をひいたと聞きつけた夏が持ってきた大量のリンゴを一つ手に取ってきながら、寝ている三好の様子を窺う。俺が目を覚ますのを待っていたように倒れた三好は、こんこんと眠ったままだった。
(そう言えば、三好は酷く顔色が悪かったな……)
 昨日まで高熱に浮かされていて、薄ぼんやりとしている記憶を辿れば、俺にスポーツドリンクを差し出しながら、心配そうに覗き込む三好の顔は、とても優しかったが、なんだか曇っていた。
 きっと自分の調子も悪かったのに、無理して俺のことを気遣っていてくれたのだろう。本当に申し訳ないことをした。一緒に暮らしているのだから、これからはもう移したりしないように、体調管理気を付けなきゃ。
 季節の変わり目には、毎年のように風邪をひき、夏や喜介に迷惑をかけることが恒例となっていた貧弱な自分に腹をたてながら、今年こそは夏に頼んで少しでも身体を鍛えなきゃなと思う。夏は、泣き虫だった小さい頃から今に至るまで風邪一つ、怪我一つしたことがない超健康優良児だから、見習わないと。
 リンゴを剥き終わり、プラスチックのおろし金ですり下ろしていると、二段ベッドの上に寝ていた三好がもぞもぞ動いて起きそうな気配に俺は顔を上げる。
「みよし?」
「ん…」
 遠慮しながらも声をかけると、小さく返ってくる返事。スポーツドリンク片手にベッドの梯子を登っとて様子を見に行くと、三好はまだ熱が下がっていないらしく顔を赤く染めて苦しそうだった。俺に気付いてこちらを見る目が熱で潤んでいる。こほこほと苦し気に数度咳をする。
「ポカリのむ?」
「ん…うん」
 俺からペットボトルを受け取って三好が飲んでいる間、俺は一度梯子を降りて三好の着替えとタオルを取りに行った。もう一度梯子を登る。
「一回着替えられる?」
「ん…」
 俺に返事はするものの、目を開けるのもしんどそうで今にももう一度ベッドに崩れていきそうな三好に悪いとは思いつつ、熱で汗ばんだままの姿で居るのはよくないと思った俺は、「ちょっとごめんね」と三好のベッドに上がりこんだ。やや、身体を起こしている三好の顔の横に陣取ると、小さな子の服を脱がすように、三好が着ていたロンTを引っ張って脱がせることにする。目を閉じながらされるがままの三好の身体は、触れてすぐにわかるぐらい熱かった。三好の体の汗をタオルで拭ってから、服を着せようと三好の腕を取ると、三好がぼんやりと目を開く。
「前田…」
「ん、どうしたの?」
「…俺……」
三好の熱で潤んだ瞳から、涙が零れ落ちそうだった。
泣き出しそうな、苦し気な表情に、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
「みよし?嫌な夢でも見た?」
自分も二日間、さんざん高熱に浮かされた後なので、三好が今苦しいだろうと思うと切なくて。
俺はここにいるからね、と三好の背中を軽く摩りながら言うと、ぐったりと三好がもたれかかってきて。三好の素肌の熱さと重みが感じられた。服を着せるのを諦めた俺は、三好を冷やさないように毛布と布団を引っ張り上げて直しつつ、なんとなくもたれかかったままの三好を押し戻すのも微妙なので、三好と一緒にくるまった。三好がまた眠りに落ちていく呼吸音。肩に触れている三好の額から感じる猫にでも触れているような熱。
シングルサイズの二段ベッドの上段は、流石に俺がガリとは言え、少々手狭だったけど。三好となら、違和感すら感じなくて。
三好の身体の熱が少しでも俺に移ってくれればいいのになんて思いながら。病み上がりだった俺も、なんとなくうとうとしてきて、そのまま俺は目を閉じた。


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あきゅろす。
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