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ハルノヒザシ
甘酒事変
「なーつー。ほら甘酒持ってきたよー」
天体観測の後の週末の日曜日。
俺はさっそく前日の土曜日に町へ下りて甘酒の材料を仕入れて甘酒を作り、夏の部屋を訪れていた。
朝から降り出した雪の影響を受けない剣道場は午後から別の部活が使うことになっており、部活が休みの夏は部屋に一人でいた。
午前中に部活に出てそのまま帰って来たのだろう。指定ジャージを着たまま携帯弄りながらごろごろしていたみたいだけど、暖房が付いてない部屋は寒くて。
俺は何この寒い部屋?とコートを脱ぐ前にエアコンのスイッチを入れる。
「早乙女君は?部活?」
「…そう…」
やっぱり元気のない夏は、ベッドからは身を起こしたものの、立ち上がることなく俺に答えた。
体調が悪いなら寝かした方がいいので早く退散しようと、ベッド前にかがみこみ夏のおでこに触れて熱を測ってみるが熱はないようだった。どうしたのかな、と俺は夏のひんやりした両の手のひらを取り犬とお手するようにぷらぷら揺する。
「別に体調悪くないよ。俺」
「ぼーっとしてるじゃないか。天体観測も来なかったし…」
星綺麗だったよ、というと夏は「あの日はどうしても眠かったんだ」と言った。
それは体調が悪いんということなんじゃないか、それなのにこんな寒い部屋で…と俺は思ったが、そんな時こそ甘酒だ!と俺はさっそく甘酒を夏に勧める。
「これね。自信作なんだよ。奮発してさ、地元の地酒の酒粕使ってあるんだ。大吟醸はやっぱ違うね!夏がさ、天体観測来なかったから甘酒飲ませてやろうと思って」
わざわざ酒蔵まで行ってきたんだよ、と俺は甘酒作りにかけた情熱を聞かれもしないのにべらべら喋りながら、甘酒のお鍋を火にかけた。温める間勝手に夏のクローゼットを開けて、厚手のパーカーを引っ張り出し、夏に着せてやる。自分で着ろって言うのに着せてって、ものぐさな奴だ。
「もうね。絶対美味しいから。我ながら感動したもん」
「酒蔵なんてあったんだ」
「俺も知らなかったけどね。天文部の子が教えてくれたんだ。いつもの町のバス停から、またバス乗って20分くらいかな」
「大吟醸も買ってきてくれればよかったのに。飲みたかった」
「言っとくけどね、俺はお前の未成年飲酒にはいつだって反対だから」
「兄貴だって甘酒は麹より酒粕派じゃないか。アルコールが入った」
「ふふん。まあ安いからいつもはそうなんだけどね。今日はなんとどっちもブレンドしてあるんだよ。栄養満点だよ」
昨日から仕込んだんだから!めっちゃ温度気を付けたんだから!と勝手に胸を張りながら、俺は夏のマグカップにたっぷり甘酒をついだ。ああ、いい匂い。俺も飲もう。散々味見したけど。俺は満たしたカップを二つ持って、飲んでみて!と一つを夏に渡す。
「ん…、あ、すげー美味しい。良い日本酒の香りと味がするね…」
「酒に肥えた夏の舌を満足させられてよかったよ!」
少しお行儀が悪いが夏のベッドに二人で座って甘酒を味わう俺達。こぼしたら責任持って俺が洗うから大丈夫。それにしても、はー、おいしいー。おいしすぎてしあわせー。あははははー。
ぽかぽかにやにやしながら甘酒を啜っていると、ふと夏がこちらを見ているのに気付いた。なんだよーと俺はじーっと夏の顔を見る。
「兄貴…少し、酔ってるね?」
「甘酒で酔うわけないでしょー。酔ってないよー」
「この甘酒けっこうアルコール入ってるもん」
「そんなことないよ。甘くて美味しいもん」
「美味しいけどさ。テンション高いなと思ったんだ」
俺が甘酒で酔うなんて、夏変なの、今までだって何回も作ったことあるけど酔ったことないし、あはは、美味しい。もう一杯飲もう。
「あ、こら、やめなさい」
「やだよー。また作ってあげるって」
「アルコール入るとどんどんアルコール求めて酔っぱらい続けるその癖どうにかなんないの」
「おいしーからもっと飲みたいんだもん。夏といれば大丈夫だし」
別に送ってくからいいけど…、と呆れ顔の夏からお玉を奪って、俺はもう一杯なみなみと甘酒をマグカップについだのだった。


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