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ハルノヒザシ

「三好ーどこ行ってたの!もしかして帰っちゃったかと思った!」
「暗いほうが流れ星見えるかなと思って。あっちのほういた。なかなか流れ星見えねーな」
ハンディマイクから天文部員の「それでは30分より、10分間だけ消灯します。足元をお気をつけてゆっくりご鑑賞下さい」のアナウンスがあった直後。俺は三好に後ろから肩を叩かれた。けっこう探していた俺は、思わず膨れてみせる。
「甘酒飲んだ?甘酒」
「まだ。残ってた?」
「まだあったよ。もらって来よう」
大鍋からほかほかの甘酒をついでもらって。俺と三好はテント前のパイプ椅子が並べられた方へと歩いていく。席はもう一杯だったが、少し離れた三好が先程いた椅子は空いていたので、俺と三好はその場所に腰を落ち着けてふうふう甘酒に舌鼓を打つ。
「なんか見えた?望遠鏡で」
「見えたー!火星と木星!木星の縞模様見て感激しちゃった。後で三好も見に行こうよ」
ほら、あれが火星であれが木星。あっちがシリウスで冬の大三角!と俺が教えてもらったば
かりの知識を披露しながら夜空を指さすと、三好も空を見上げた。
(夏ともこんな話をいつかしたなあ)
夏は星に詳しかったから、今日は多分来ると思ってたのに、姿が見えなくて。俺はやっぱり病み上がりっぽいのに部活に出ていたのが悪かったんじゃないかと、星空を見上げながら思う。
甘酒、作ってもっていってやろ、と俺が思っている時、ふっとライトが消えた。
遠くの道路の明かりで真っ暗闇とは言わないが、ぐっと夜空が迫ってくるように、闇が広がって。

遮るものがない視界一杯の夜空に広がる星。星。星。
おおーとテントの方から感心した声があがり、俺もすっかり夏のことは頭から吹き飛んで、思わず椅子から立ち上がり綺麗綺麗とはしゃいだ声を上げてしまった。隣の三好も立ち上がる。
「あれがふたご座か?」
「そうそう。冬の大三角の上にある奴」
「あっち見てればいいのか?」
「色んなとこから流れるみたいだけどね」
そう言って、俺達はしばらく夜空に見惚れる。みんな夜空を見上げているのか、しんしんと静けさが漂っていた。段々目が慣れてきて、星明りを反射するグラウンドに積もった雪の白さと、深い藍色を称えた夜空の闇と、ちらちらまたたく視界一杯の星の輝きが、圧倒されるほど美しくて。俺はため息をついた。白い息が少し微風になびきながら、空に昇っていく。

流れ星、どこだろう。見たいな。お願い事したい。
隣の君はどんなお願い事をするんだろう。

肩が触れ合うほど近くにいる君のことを想う。
君と夜空を見上げる度に、俺の願いは膨らんで。
神様。数センチでいいから。

いつの間にか、祈るように両手を合わせた。


その時。すうっと。
視界の端から端までいっぱいに。
一筋の光が横切った。

「あっ!」

隣の三好を見ると同時に三好も俺を見た。
「見た?」
「見えた見えた!」
興奮して夜空を指さす俺に、同じく興奮気味の三好が頷いた。
ひとしきり感動してから、俺たちはまた空を見上げる。

ぽつんと隣の三好が呟いた。
「綺麗だなあ…」

しみじみとした君の声は、きらきらと輝く星の光と共に、俺の胸に深いところへ、じんわりと染み込んでくるようだった。



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あきゅろす。
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