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ハルノヒザシ

次の日の朝。
時計を見るといつもの6時半だった。
もちろん俺は二度寝をすることにする。
隣の三好は珍しく布団に潜って丸まるのではなく仰向けの態勢でぐっすり眠っていた。
(あはは。めっちゃ浴衣はだけてる)
思いっきり浴衣が寝乱れているが、室内は暖かいから風邪をひくことはあるまい、と俺はもう一度目を綴じて。三好の肩に少しだけ触れるように身を寄せた。
いつも同じ部屋で暮らしているけど。
目を覚ました瞬間から君の姿が見えるのはやっぱり、特別で。
(三好を抱き枕にしちゃおうかな…)
俺に少し邪な考えが過ぎる。
今だったら寝ぼけてた、で、済ませられそうだから。
三好を起こさないように、そおっと右腕に触れて。もう少しだけ身を寄せた。
三好の体温が浴衣越しに頬に感じられて。
俺は幸せに口元を緩ませながら、もう一度目を閉じた。

−−−

二度目に目が覚めると8時10分前だった。
朝食のバイキングが9時半最終入場なので、そろそろ起きるかと俺は身体を起こす。
寝相の良い三好はやはり俺を蹴とばすことはなく、さっきと同じ格好のまますやすや寝ていた。
俺はとりあえず顔を洗った後、お湯をわかして梅昆布茶を頂くことにする。
(わー今日も晴れだ。山がキレー…)
ベッドサイドのソファに体育座りして梅昆布茶をすすりながら、俺は窓の外を眺める。昨日は夜景が楽しめたけど、今日は周りを囲むうっすら雪化粧した山々がよく見えた。
ふーっと息を吐きながらまったりした時間を堪能していると、三好が起きそうにもぞもぞと目をこすっているのに気付く。やがて三好はてゆっくりと身体を起こした。
「おはよ、起こしちゃった?」
「ん…いや…」
いくらいつもからすればのんびりの時間とはいえ、朝に弱い三好はまだ覚醒にはほど遠いらしく。ベッドの上に胡坐をかいた三好は眠そうに目をしばたたかせる。
三好の浴衣はもうすっかり前が全開のため、その格好だと三好の下着まで丸見えだが、俺はレアな光景なので相変わらずそのままほっておいた。三好の手が、眼鏡を探しているので、ここだよ、と三好に眼鏡を渡してあげる。
「どうする。とりあえずなんか飲む?俺梅昆布茶飲んだけど。それとも起きてご飯食べに行く?」
「…コーヒー…」
はいはい、と朝一に三好にコーヒーを出すのはすっかり俺の習慣の一部なので、俺は三好にコーヒーを淹れて渡してあげた。三好がベッドに座ったまま、眠そうにコーヒーをすする。
「おはよ。よく寝れた?」
「うん。おはよう…」
コーヒーを飲んで大分目が冴えてきた様子の三好に、俺はもう一度声をかけた。俺に頷いた三好は、もう直すのが面倒くさいのか、浴衣をそこに脱いで、パンツ一丁でふらふら歩いて洗面所の方に向かう。
そんな三好を見送って、俺もそろそろ着替えるかと思っていたその時、ドアをノックする音がした。
あれ?チェックアウトは11時だったはずだけど…、と訝し気に思いながら俺はとりあえずドアを開ける。
「はい…」
「おはようございます、遠藤様。朝食をお持ち致しました」
ドアの外にはワゴンを押して立っているホテルマンのお兄さん。焼きたてのパンの香ばしい匂いがあたりに漂っていた。
あれれ?朝食はバイキングって書いてあった気がしたけど、でも遠藤様って言ってたからいいのかな?というか俺まだ浴衣なんだけど、と内心混乱しながら、俺はドアを開く。
俺がおろおろしていると、ホテルマンのお兄さんはてきぱきと俺が出しっぱなしにしていたマグカップを片付け、朝食の支度を進めていく。
バスルームから出てきたパンツ一丁の三好が平然としているところを見ると、どうやら遠藤さんがルームサービスを頼んでいてくれたらしい。こんなに贅沢していいのだろうか。
「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
爽やかな笑顔でホテルマンのお兄さんが去っていく。
窓際のテーブルに並べられたオムレツ。ベーコン。焼きたてパン。サラダ。フレンチトースト。ポタージュにオレンジジュース。デザートにはフルーツとヨーグルト。俺食べきれるかな?
流石に浴衣をもう一度来た三好と、朝食を頂くことにする。
「すごい…、ルームサービスとか俺多分この先縁が無いよ…」
「爺さんがルームサービスか個室じゃねえと食わないからな。後俺が起きれないと思ってんだろ」
ふわふわサクサクのクロワッサンを齧りながら感動している俺を余所に見事なナイフ捌きでオムレツを食べる三好。流石実家に池がある男。こういう場所での立ち振る舞いに思い切り育ちの差が出ている。今度マナー教えてもらおう。
「うわぁ、このオムレツ美味しい…。どうすればこうなるんだろう」
「俺は前田のオムライス好きだぜ。ひよこの奴」
しっかり俺の悪ふざけを覚えている三好が、トーストにバターを塗りながら言う。
ああ、昨日から色々あり過ぎて。夏に言いたいけど三好と泊まったなんて言ったら、なんで俺とはお泊りしないんだと膨れ始めるのが目に見えているので話せない…。いつか社会人になったら、夏にもここまでは出来ないかもだけど贅沢させてあげたいな。
そんなことを考えながらフレッシュオレンジジュースと共に終りつつある非日常の余韻に浸って。

「忘れ物、ない?」
「多分」
「ちょっと、あれ携帯携帯!」
「あ、やべ」
チェックアウトギリギリまでのんびりとその時間を堪能した後、俺と三好はホテルを出て帰路に就いた。


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