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ハルノヒザシ

三好がお風呂に入っている間。
暢気に部屋のあちこちを探検し、今日買ってきた買い物を整理しつつ眺めて悦に浸った俺は、まさかこんな豪華なところだと思わず遠足気分でコンビニから買ってきたお菓子を摘まみながら、ソファに寝転んでテレビを見ていた。
基本的に俺はちょこまかと動いて居たいタイプなので、部屋にいると何かしら台所で作ってみたり、掃除したり、アイロンをものすごく丁寧にかけてみたり、編み物したり、たまに勉強したり、と落ち着きがないので、こんなにまったりするのはなんか新鮮で。
一日中動き回ってた疲れが出てきたのか、少し眠くなって緊張も溶けてきた俺は、ありがたくお部屋を堪能させてもらっている。
(三好ものんびりしているみたいだし…)
いつもだったらあっという間にお風呂から出てくるのに、今日は中々出てこないので、きっとお風呂にゆっくり浸かってるんだろう。
ぽりぽりとお菓子を齧りながら、俺はテレビを見て、一人けたけた笑う。
「面白いのやってた?」
「うわっ、いたの?」
突然後ろから声がしたので振り返ると浴衣姿の三好が立っていた。相変わらず物音を立てない三好は、絨毯敷のこの部屋だと忍者並みに気配がしない。
「ポッキー食べる?ポッキー」
ん、と俺からポッキーを一袋受け取り、俺と一緒に買ってきたコンビニコーヒーを持ってきて、三好がもう一つのソファに座る。
「三好も浴衣にしたの。バスローブにすれば良かったのに。三好だったら似合うのに」
すっかり修学旅行の俺は、とりあえず三好を弄った。まあ、三好はもちろん浴衣も似合うけど。
「嫌だよ。何で俺だけバスローブなんだよ。前田が着てこいよ」
「俺が着ると、なんで君バスタオルで服作ったの?って感じになるから嫌だ」
一人でどうでもいいこと言ってげらげら笑う俺を見て、三好が軽い憐みの目を向けてくる。
「テンション高いな。もう11時近いのに」
「だって旅行来たみたいなんだもん。そりゃテンションも上がるよ。遠藤さんに感謝だなあ」
「そりゃよかった。言っとくよ」
三好はポッキーを摘まみながら言う。
「ありがと!是非頼むね!ねぇ。遠藤さんってどんな人なの?」
「あー。年は35はいってないな…。見た目は、まぁいつもスーツで眼鏡で普通のリーマンって感じかな。俺から言わせりゃ、いつもへらへらしててうさんくさいおっさんだけど。背中に四神の墨入ってるし。なんか学生の時にじーさんに拾われたかなんかで、いつの間にか住み込みしてたらしいな」
ふーん、と俺はなかなか聞けない三好の自分語りに興味津々で聞き入る。微妙に物騒な単語入ってたけど。
「初めてお話したけど、なんかすごーく三好大切っ!って感じが溢れ出てたね」
「あいつバカなんだよ。いつまでも俺が幼児だと思ってる。まあ親より長く一緒にいるからな。俺が5歳の時から、じーさんに言われて。アイツが過保護に甘やかしたせいで俺はこのざまだ」
三好はにやっと笑いながら言うが、俺も散々夏を甘やかして来たので心が痛い。わかるよ。かわいいんだもん。かまってかまってなんでもしたくなるんだよ。その子のためなら。いつまで経っても、何をやっても可愛くてしょうがないんだよ。
「いつか会って直接お礼言わなきゃ。こんな素敵なホテルに三好と泊まれるなんてさ」
「犬の骨でも投げとけばいいんだ、アイツなんか」
そんなこと言いつつも、ご実家から何か届けられるといつもちゃんとお礼を言ってるのを俺は知っている。
「ああーでも俺今日すっごい楽しかった。三好のおかげ、ありがとう!!」
「あの混雑電車には参ったけどな」
「そうそう。いつの間にか俺隅っこに押さえこまれてたからね」
「前田が流されてくの見えたけど、成すすべもなかったからな」
俺と三好はソファにごろごろしながら、今日の出来事の思い出話に花を咲かせる。
「はー、ほんと楽しーー。寝たくないー。もったいないー」
「いいよ。寝たら運んでやるから」
「あのベッドで眠りに落ちる瞬間を味わえないものもったいない!きゃっほー!うっわ、何このベッドスプリングすごい!」
眠さですっかりテンションが変に上がり切った俺は、ダブルベッドに飛び込んだ。あれこのサイズだとキングサイズって奴なのかな?
三好しかいないことをいいことに、ぽんぽんベッドの上で弾んで遊ぶ。
「ねぇ、三好。すごいよ、このベッド。ほらほら、あー枕ふかふかー」
枕に抱きついてごろごろ転がってベッドの広さを堪能していた俺だったが、三好がいつまでたってもソファから動こうとしないので、枕を持って三好を呼びに行く。
「ねー三好ってば。ほら枕ふかふか」
「よかったな」
俺に枕を押し付けられながらも、ソファに寝っ転がったまま、テレビを見ている三好。そんなテレビ面白いかな、と思ったけど何回も流れたニュースが流れているだけだ。
「三好って!俺三好が寝てもベッドまで運べないよ。眠いんならベッド移動しようよ」
少し眠そうな三好の肩を揺するが、それでも三好は動かない。
「…いい。俺ここで寝る」
そう言ってごろりと俺に背を向ける三好。確かにこのソファも寝心地は良さそうだけど。三好のお陰で泊まれるのに、当の本人の三好を差し置いて俺がベッドを独占する訳にもいかないので、俺は三好の浴衣を引っ張る。
「なんでーベッドで寝ようよ!疲れ取れないよ!」
「俺にはここで充分だ」
「ねー三好。どうして!」
「俺寝ぼけて前田蹴とばしてベッドから蹴りだすかもしれねぇ。危険だ」
三好寝相むちゃくちゃいいんだからそんなことしないでしょ、と俺はムキになって三好の浴衣を引っ張るが、三好は頑として動かず、俺に背を向けたままだ。その背中を見ていて、俺はああそうか、と合点が行く。
(三好は多分一緒に寝るのとか嫌だったんだろうな)
何回か三好と一緒に寝たことはあるが、どれも俺が勝手にそういう雰囲気にしたもんだから、優しい三好は我慢してそのまま居てくれたんだろう。
ようやく気付いた俺は、ちょっとしゅんとしながら、握っていた三好の浴衣を放す。
とぼとぼ備え付けの毛布と枕を持ってきて、隣のソファに置いた後、まだ背を向けている三好の背中を遠慮がちにつついた。
「三好?まだ寝てないよね。俺がソファで寝るから。三好がベッドで寝なよ」
「いいから。前田がそっち寝ろってば」
「俺あんな広いベット一人じゃ寂しいもん」
一人で寝るんだったらソファがぐらいがちょうどいい。
三好がまだこっちを向いてくれないので、俺は諦めて隣のソファに寝ころんだ。
おやすみ、と毛布を被る。しん、とする室内にテレビの音。
あ、電気消した方がいいかな、なんて毛布の中で考えていると、突然視界が明るくなった。
「え…」
三好が俺見下ろしながら、毛布を床に投げ捨てる。
「どうしてそうなるわけ?」
ちょっと怒ったように言う三好の浴衣は、俺が引っ張りまくったせいではだけていて。三好がなんでいきなり怒り出したのかわからない俺は、唖然として三好を見上げた。
「ちっ」
「三好、あ、ちょ、ちょっと…」
三好が舌打ちをした後いきなり俺を抱きあげて。え、なになに?と動揺している間にベッドに放り出された。三好が続けてベッドに上がってくる。
三好はきつい目をすると顔が整いまくっているせいで、迫力があり過ぎで。
俺は口を開けたまま蛇に睨まれたカエルのごとく、俺を見下ろす彼を見つめた。
はだけられた浴衣から、三好の鎖骨と左胸の入れ墨痕がのぞく。
眼差しから、身体から、凄みと妖艶さのようなものが漂って。
俺は美しい悪魔にでも睨まれた気分になった。
多分、何があっても、逆らえない。

三好が眼鏡を外す。
「俺が寝ぼけて何しても知らないぞ」
ちょっとの間俺を睨んだ後、がばっと三好は頭の後ろで手を組んで寝転がった。
三好の視線から外れて、金縛りが解けた俺はもぞもぞと三好の隣に潜り込んで。
目を瞑ったままの三好の顔を覗き込む。
「三好、あの…」
「嫌じゃない。そういう訳じゃないんだ」
「俺…」
「違うんだって!」
三好はまた、がばりと勢いよく起き上がった。いきなり起き上がったもんだから、一瞬キスしそうなぐらい顔が近づいて。三好が目を丸くして、弾かれたように俺から身を離して。ベッドの背もたれに張り付いた。そのまま三好の顔が赤くなり、口元を押さえて、俺から視線を逸らす。
「いや、俺、あの、本当にこういうの慣れてない、から。へ、変な意味じゃなくって。前田は、弟君とか友達いたから慣れてるだろうけど。俺、コミュ障だから恥ずかしく、て。なんか、触れたらびくっとかなっちゃいそうだし、心臓鳴ってんのバレたら恥ずかしいし…。この頃普段は大分、慣れてきたけど。ここ…ホテルだし…」
さっきの迫力とは打って変わって動揺のあまり目を潤ませる三好。俺は君のそういう不器用なところも大好き。
「ん…ごめん。俺パーソナルスペースぶっ壊れてるみたい。それに…」
三好と一緒に居ると幸せなんだもん、と思わずぽろりと本音が口に出た。
「寝よっか。明日は、ゆっくり起きよう」
「ん…」
電気を消して、三好と二人でベッドに潜り込む。
もう時間は、午前一時を過ぎていた。
俺はあっという間に眠りに落ちていく。


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