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ハルノヒザシ

(ふう…)
シャワーの栓を捻って。俺はバスタオルに手を伸ばした。
タオルまでいい匂いしたよ!すごいよ!と先に風呂に入った前田が言っていた通り、バスタオルからは良い香りが漂う。前田が出るときにバスタブに湯を張っていてくれていたので、少し長湯してしまった。備え付けの浴衣を着てから、軽く頭を乾かす。
(くっそー、遠藤の奴…)
外泊ですか?わかってますよ!お任せ下さい!と勝手に張り切りこんな部屋に来ることになろうとは…。絶対、俺いい仕事した!と電話の向こうでアイツがドヤ顔していたと思うと腹が立つ。
友達だって言ってんのに、前田が電話に出た後、「なんだ、本当にお友達だったんですか…俺はてっきり…」ってあのバカ!!勝手なことばっかりしやがって!
(俺にとっては誰と来るより幸せなんだよ!)
前田と遊びに行きたかったから変にならないように誘って。プレゼント返す為に事前にやったらめったら多い店を遅くまで調べて。どうにか店に辿り着きプレゼント買えて。一緒にご飯食べて買い物して。さらにイルミネーションまで見れて。一緒に写真撮って。
大好きな君と1日居れただけで幸せだったのに。まあ、普段も一緒なんだけど。
いつか前田と一緒にどっか泊りがけで遊びに行きたいとは思っていたが、ダブルベッドとは言ってない。スイートルームとは言ってない。
そりゃ、寮の狭いベッドで二人で寝たこともあるけど、何か違う。違うだろ!
(俺はやっぱりソファで寝よう…。この雰囲気で前田の隣に寝るとか、無理だ。寝れる気がしねぇ…頭おかしくなる)
よし、ともう一度気合を居れるように大きくため息をついてから、俺はバスルームを出た。
(ん…?何してんだ)
浴衣を着た前田が応接間のソファに正座して、整理でもしているのだろうか。今日買ってきた荷物を周りに広げていた。
沢山の毛糸。弟君への服や下着。前田の靴や服。珍しい輸入食材の数々。
そんな買い物品に囲まれて、前田は俺があげた腕時計を、嬉しそうに眺めていた。
その顔を見た瞬間、俺は胸が一杯になって、再度バスルームに逃げ込む。
(うわああーーー。もう、かわいい、かわいい、かわいい。ああー好き。ほんとに、好き!)
俺はずるずるとドアにもたれながら、その場に座り込む。心臓がバカみたいにドキドキ脈打っていた。
ふにゃふにゃへらへら笑う笑顔が好き。些細なことではしゃいで輝く目が好き。色白ですぐ赤くなる頬が好き。けっこうすぐ「もうー」と尖らせる唇が好き。俺の名前を呼ぶ穏やかな高めの声が好き。細くて小さくて繊細なお玉や木ベラが似合う手が好き。ぱたぱた走る華奢な身体が好き。俺の隣に居てくれる君の全てが、俺を幸せにしてくれる、君の全部が大好き。
嬉しそうに俺の送った時計を見る君の横顔に。日に日に強くなるこの思いが溢れ出しそうで。俺は胸を押さえた。
こんなにいつも近くに居て。いつもいつも幸せなのに。
あんな顔見たら、触れたくなる。抱きしめたくなる。離れたくなくなる。もっともっとって。
前田の特別になりたいって。分不相応な願いを抱いてしまう。
前田の友達でいられて、毎日一緒にいれてこんなに幸せなことはないのに…。
(本当は迷ったんだ。前田が好きな水色の時計と)
多分あっちの方が前田には似合ったんだ。でも…。
俺は溜息をつきながら頭を抱える。
(あの時計見たら…)
ピンクとブルーの時計。ピンクは前田の色。そして…青は俺の好きな色。
プレゼントなのに自分の好きな色を選ぶって気持ち悪いなと思いながら、気付いたら買っていた。
(そして前田がその腕時計しているとこ見て、妙な満足感が…)
まるで、前田に印をつけたような…。
(うわっ、ばかっ!気持ち悪いっ!何を考えてるんだ俺は…)
最初は前田からのプレゼントのお返しがしたくて、色々真面目に探していたはずなのに。最終的に買ったものがそんな曰くを勝手にこさえたモノだとは…。俺はバカだ。
(ああ、でも…)
前田の横顔を思い返せば…。そんなことも知らず前田は喜んでいてくれていて…。
(幸せだ…本当に)
全身を満たす、たまらない幸福感。君が喜んでくれたことが、純粋に幸せ。
前田はまた、俺に初めての感情を教えてくれる。
知りたい。どうしたらもっと君は喜ぶんだろう。俺に何ができるんだろう。
君と面と向かうと、自分の感情を押さえるのに必死でそれどころじゃなくなってしまうけど。
(好き。大好き…)
昨日より今日。今日より明日。きっとこの想いは強くなる。
「はあ……」
もう一回大きな大きな溜息をついて。
俺は気合を入れながら立ち上がった。


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