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ハルノヒザシ

その後もショッピングを堪能して、もう午後8時。
おなかすいたね、と三好とレストランに入り、ハンバーグセットを待っていた時、三好の携帯が鳴った。三好がなんだろう?という顔をしながら電話に出る。
「もしもし。藤堂。あー今飯食うとこ。は?何でお前俺の場所知ってんだよ?GPS?どういうことだ?」
段々寄せられる三好の眉。
俺はぽかんとしながら会話の成り行きをメロンソーダを飲みながら見守る。
「俺の携帯?何お前勝手なことしてんだよ。毎日チェックしてたのか。今すぐやめろ!はあ?お前ばかにすんなよ!」
三好が悔しそうに唇を噛んでいる。遠藤さんって三好のお兄さんみたいな人だよな。あのよく電話かけてくる。三好の居場所わかるってすごいな。スマフォにはそんな機能あるんだ。
「いや。寮に帰らねぇ。ファミレスかカラオケ行く。いや、歌わないけど。タクシーは長時間乗るのたるいから嫌だ。大丈夫だって。一人じゃない。友達いる。そーだよ、うん、うん、おい、勝手な真似するな!」
何したんだろう?と俺はまた一口メロンソーダを飲む。三好んち門限あるんだろうな。三好はどう考えても超箱入り育ちだから。
「いい!いいってば!ほっといてくれ!はー?俺絶対行かないからな。おい、爺さんに言うな。卑怯だぞ!ちょっと、おいってば。くそっ」
どうやら切られたらしい三好は、溜息をつきながら忌々しそうにスマフォを睨んだ。
なにがあったのー、と俺は呑気に聞いてみる。
「いや。遠藤のバカが俺の位置勝手に把握してやがった。毎日8時にチェックしてたんだと。今日帰らないって行ったらあぶねーからホテル泊まれって。なんだアイツは。ガキ扱いしやがって」
どうやって解除するんだこれ、と三好が忌々しそうにスマフォをテーブルの上に放り出す。
「俺は別にホテル泊まってもいいよ。これから探してみようか」
「ん…俺、友達と終電逃すみたいなのやったことなかったから、始発待つみたいなのやってみたかった。前田と弟君みたいに」
三好がちょっと恥ずかしそうに言うと、また震える三好のスマフォ。どうやらメッセージを受信しているらしい。何回か連続で受信音が鳴って、三好が舌打ちしながらスマフォを持ち上げて画面に目を向けた。
「うわ、アイツ勝手にホテル予約しやがった。良いって言ってんのに」
「え、どこ?ああ、ここ。駅の近くにあったね」
また、電話が鳴って。三好がぶすっとしながら電話に出る。
「お前なー、いいっていっただろ。いや、金の問題じゃねーんだよ。友達出せ?いやだよ。だから前田だって!」
なんか俺の話になっているようなので、俺は電話でれるよ大丈夫だよのジェスチャーを送る。三好はだいぶ押し問答を繰り返していたみたいだが、根負けしたように、謝りながら携帯を差し出した。俺は電話を耳に当てる。
「あの、もしもし…前田春日と申します…」
『はじめまして!いつも若がお世話になっております。私、若の世話役の遠藤と申します。どうぞ以後お見知りおきを…』
初めて聞いた遠藤さんの声は、はきはきして明るく低めの声だった。ヤクザだと事前に知らなけらば、声だけで、出来るバリバリのサラリーマンを想像しただろう。
「い、いつも宅急便ありがとうございます。俺、頂いてばかりで申し訳ありません。すごく助かってます」
『それは何より。若の大切なご友人の方に喜んで頂けて光栄です。春日さんも必要なものがあればいつでも仰って下さいね。すぐに手配致します』
いや、そんな、と俺がごにょごにょ言っていると、遠藤さんはハキハキ話を続けて行く。
「それでですね。春日さん。そこでお楽しみ中のところ申し訳ないのですが、本日は若と一緒にホテルへのご宿泊をお願いしてもよろしいでしょうか?若はあの通り非常に世間知らずなので、私共としてはできる限り安全な場所にいて頂きたく…』
「あ、あの、分かりました。ホテル予約してくださってありがとうございます、俺の分はお支払いしますので」
『結構でございます。私が勝手を申し上げておるのですから」
そんなこと言われても!と俺は食い下がる。
「いや、あの…大丈夫です…」
『若のご友人からそのようなものは受け取る訳には参りません。いつも若が本当にお世話になっているそうですし。若は春日さんのことを幸せそうに話されます。若の世話役として私からのほんのささやかな感謝の気持ちとさせてください。それに、春日さん。大人には甘えるものです』
電話越しから伝わる、この人のには全くもってかなわないと感じさせるきっぱりとした言葉に、俺は、はっとした。
こちらを伺うような目つきで見ている三好を一瞥してから、俺は頭を下げる。
「ありがとう、ございます。助かります。本当に。お気持ち嬉しいです。甘えさせて頂きます」
「とんでもございません。いつかお会いできるのを楽しみにしております」
そこで再び三好に電話を返す。三好は少しだけ通話をした後電話を置いた。いつの間にか来ていたハンバーグが美味しそうな匂いを漂わせている。
「なんか、すごい、大人な人だね」
初めて話したタイプの人に、俺はそう言うだけで精一杯だった。三好がまた大きく溜息をつく。
「いや、ほんとごめん。遠藤の阿保のせいで。アイツ俺の言うことなんか聞きやしないから」
「ううん。助かるよ。ゆっくりできるし、きちんと眠れるし。でも俺ちゃんと払うから。渡してね」
「いや、ほんとーに!いい!あのバカに払わせておけばいいんだ。俺も絶対払わない」
「そんなこと言っても」
「いい!アイツらは俺に過保護に干渉してくんのが好きなんだから。喜ばせとけばいいんだ」
三好が言うならそうなのかしら、と俺はやっぱり甘えることにする。
「食べようぜ」「うん。頂きます」
しばらくぶりに自分じゃない人が作ったハンバーグを食べたが、とてもジューシーで美味しかった。
居座るつもりで頼んだドリンクバーもそこそこに、「それじゃあ行ってみようか」と俺たちはホテルに移動することにする。



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