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ハルノヒザシ

楽しい時間はあっという間に終わって。
そろそろ戻ろうかと、駅に戻った時「うわ。マジかよ…」と思わず三好が舌打ち交じりに呟いた。
ざわざわと混んでいる駅内の電光掲示板には「車両故障のため遅延が発生しております」の文字。
一時間は遅れているみたいなので、おそらくもう学校に戻るバスは目的地につく時にはなくなっている筈だ。
「すまん。前田。俺が遠いところに誘ったばかりに」
「んーん!なんで三好が謝るの?連れてきてもらったし、俺の方がすげー楽しんでたし!むしろ俺がのんびり買い物してたからだし」
今日は24時間営業のレストランとかカラオケとかで明日のバスの時間まで待てばいいじゃん!と俺が言うと、三好もそうだな、と頷いてくれた。
実はまだ4時前で。まだまだ見たりなかった俺は、時間制限が無くなってこれ幸いとばかりに、買い物した荷物をロッカーに預け、再度ショッピングモール内へと戻って。買い物終ったから、という三好を引っ張り回すことにした。
冬の夕暮れ。一つの店を出るたびにあっという間に日が暮れていって。ショッピングモール内が段々ライトに照らされていく。
「うわ!イルミネーションやってる!」
併設されている公園内はすっかり色とりどりの光で彩られて。店舗内の3階に居た俺は思わず、窓の外を眺めた。
「三好、あっち行っていい?
「うん。見にいこう」
一度店舗からすっかり真っ暗になった外に出る。外にでた瞬間、大きなクリスマスツリーが飾られていたのが目に飛び込んできた。鈴なりに揺れるオーナメントがきらきらと色々な光で瞬いていて。
「うわあ!すごい!」
と俺は思わず歓声をあげた。吐き出された白い息が空に昇る。夜空にそびえるクリスマスツリーに心が踊った。
またこれで雪が降ってたら、すごくクリスマスっぽいのに。ああ、でもすごくいいな、こういうの。
「綺麗だね。遅くまでいて良かった!」
「ああ。俺本格的なイルミネーションとか始めて見た、かも」
「俺も!ちょっと歩こうよ」
立ち止まっている三好を促し一緒に夜の公園へと歩き出す。
青白い光で彩られる木々。七色に光る噴水。MerryChristmasと点滅する文字。光っておどけるサンタや雪だるま。
すごいすごいと興奮する俺を、三好がスマフォで写真に収めてくれた。
すごい。夜景もこんなにスマフォって綺麗に写るんだ。これはぜひ…
「三好も撮ろうか」
「いや。いいよ、俺は…」
「ええー!せっかくだから!ここからの眺めすごくいいよ。クリスマスツリーも見えて」
多分三好が写れば、雑誌表紙みたいな写真になると思う、のに!
「一人で写ってもなあ」
「じゃあ、誰かに撮ってもらおう。すみませーん」
渋る三好の腕を掴まえて、俺たちはクリスマスツリーの前で写真を撮ってもらうことにした。俺ばっか満面の笑みでピースしてはしゃいでるけど、三好は三好で恥ずかしそうなのかまたいい感じ。焼き増ししてもらおうっと。
シャッターを切ってくれたカップルの写真をお礼に数枚撮って。ありがとうございます!と二人仲睦まじそうに俺が撮影した写真を見てる姿を見た時、俺はふと気付いた。
(あれ、周りカップルしかいないんだけど)
きょろきょろしていると、微妙に居心地悪そうな顔をしていり三好に気づく。三好もこんな雰囲気の中、一人はしゃぐ俺と一緒に居るのはさぞ恥ずかしかったに違いない。ポケットに手を突っ込んで背中を丸めていても、三好はかっこいいけれど。
(ああ、きっと…)
いつか三好は、女の子と来るんだろうな。寒いからあの人達みたいに腕を組んで。
さっきは何気なく三好の右腕を取った左腕に、少しだけ空虚感を感じた。
はしゃぎ回っていた癖に、突然静かになった俺を、三好が訝し気な目で見てくる。
「どうした?寒い?」
「ん、違う違う。カップルばっかだな、て今気付いて今更場違いさを感じてた」
思わず小声になると三好がぷっと笑う。
「はは、今気づいたの?前田普通にリア充の中に突入してくからすごいなと思ってたよ」
「イルミネーションに興奮してて周り見えてなかったんだよ」
「そうなんだろうなと思ってたよ」
挙動不審になり始めた俺とは裏腹に、俺を笑って緊張の糸が解けたのか三好はあっけらかんとした笑い声を響かせた。あんまり笑うもんだから、俺は膨れる。
「笑いすぎだよ!」
「いや。悪い。前田の表情がころころ変わって。思っていること全て顔に出てたから面白かった」
「三好だって顔に出るタイプのくせに!」
「いや。すまん。すまん。良かった、一緒に来れて」
笑って涙が出たのか、目元を指先でこすりながら、三好は俺を見た。笑い交じりで持ち上がった口角から形の良い歯が覗いている。

「俺、イルミネーション見るたびに今日のこと思い出しそう」
イルミネーションをバックに。俺の作ったマフラーを巻いて。楽しそうに笑う三好の姿は。
夜の闇の中なのに、いつもに増して大人っぽい恰好なのに、無邪気に見えた。
光に照らされれる君の笑顔を、もう一枚、ファインダー越しに覗き込んで、ずっとずっととっておきたかった。


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あきゅろす。
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