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ハルノヒザシ
ピンクゴールド、インディゴブルー
「前田、そっちじゃない、2番線」
「あ、ごめんごめん。ぼーっとしてた」
その週の土曜日。
学園からはるばるバスで一時間半。駅の改札をくぐり、青春18切符のポスターに目を奪われていた俺は、三好に呼び止められた。青春18切符のポスターはいつも素敵だよね。
電車の特急で30分。あるリゾート地の玄関口の駅が再開発され、大型のショッピングモールがオープンしたらしい。店の数300もあるんだって。俺そんなとこ行くの初めてかも。
先にすたすた階段を登って行ってしまう三好は、黒いコートに細身のデニム、黒のニットに、俺があげたワインレッドのマフラーと相変わらずシンプルなコーディネイトだが、まあー、かっこいい。慌てて追っかける俺は、いつもの通学用のダッフルコートにリュックサック、ストレートのジーパンとガキっぽい恰好をしているので、恐らく同い年には見えないだろう。あ、ということは兄弟に見えるかな。なんてね。
ちょうど良くホームに電車が到着して。乗り込むとけっこう人が乗っていた。これみんなお買い物行く人なのかな。若い人が多い気がする。座る席が見つけられなかった俺たちは、ドア付近に二人で立つことにする。
「俺こっちの方向行くの初めて。ああ、すごい山綺麗だね」
「俺もだ。というか生涯で一番東に行く気がする」
「そーなの?じゃあいつか東京旅行行こうよ!俺も行ったことないんだよね。東京タワー登る」
「今はスカイツリーなんじゃないか。俺パンダ見てぇな」
「いいね!俺浅草も行ってみたいなぁ。雷門の前で写真撮って。人形焼き食べる」
最初はおしゃべりしながらのんびり乗っていたのだが、ショッピングモール効果なのだろうか。駅を過ぎるごとにみるみる混んできて。あっちに押されこっちに押されしている間に、開かないドアの方に追い込まれてしまった。こんなことなら4両編成じゃなくてもっと車両数増やすべきだと思う。
(三好はどこに行っただろう?)
まあ、電車内には背を向けた恰好になっている俺には探すことも出来ず、前に抱えたリュックサックを抱きしめながら満員電車内をやり過ごすことにする。後数駅の我慢だ。
『この先揺れますのでご注意ください』
そう車内放送があった後、ぐらりと揺れる車体。隅に居る俺はポールを持ってなんとか耐えたが、俺の後ろに居る人は掴まる場所が無くて、バランスを崩したのか俺の隣、窓ガラスに手をついた。
(あ、これ三好の手だ)
なんだそこにいたのか、と首だけ回して後ろを見れば、ばっちり三好と目が合った。思ってたより近かったので、俺は少し動揺する。眼鏡の奥のまつ毛の長さまで見える距離だった。
「混んでるね…」
「ああ、俺押され過ぎて背骨おかしくなりそう」
「大丈夫?こっち来れば」
「これ以上そっち行ったら前田がぺちゃんこになるだろ。次だし、大丈夫」
そう言って三好が窓の外に視線を移した。俺も首が痛いので、目の前の壁に視線を戻す。俺のすぐ横には三好の腕。あlあ、そういやこれ「壁ドン」って奴かな。
文化祭で夏にカツアゲ紛いの壁ドンをされたことを思い出す。まあ、俺背を向けちゃってるから多分違うんだろうけど。

「…ドアが開きます。ご注意ください」
目的地に着いて。やっぱりみなさんここが目的地だったらしく、どっと電車から人が流れ出した。ホームに降りても人が多くて。三好はなぜだかこんなに混んでるのにするする進んで行くので、どんくさい俺は置いて行かれるのは嫌だと三好の鞄を掴む。
「待って待って。置いてかないで。俺三好と違って人抜けのスキルは持ってないから」
「悪い。迷子紐でも持ってくるべきだったな。俺どこに行くかわからねぇから」
「繋がれるのは三好の方なんだね」
三好は例えるなら黒猫だから、紐は似合わないと思うけど、なんて俺がどうでもいいことを考えているうちに改札を抜け、そのままの人の流れについていくと、巨大なショッピングモールが見えてきた。俺は三好から手を離して思わずはしゃぐ。
「すごいすごい!めっちゃ広いね!なんか入口テーマパークみたい」
学校から最短2時間少しでこれる場所にこんな楽しそうな場所があるなんて。ああ、やっぱり夏も来ればよかったんだ。他校との練習試合って言ってたから仕方ないけど。あー夏のパンツ買わなきゃ。ここならなんだってあるだろう。
「ほんと広いねー。うわー公園もある。映画館も!」
「これ一日じゃ回れないな」
早速店内マップを手に入れて。俺と三好は作戦会議をすることにした。三好の目当ては服と本。俺の目当ては靴と冬用品と夏の服と後手芸用品も見たいし、輸入食材の店も見たい!普段の食材は最寄駅に帰ってからするとして…。
服屋の名前があり過ぎてなにがなんだかわからないので、とにかく廻ろう!と雑な作戦会議を終え歩き出した20分後。俺はあっという間に手芸用品の店に掴まり、三好と一旦別れて別行動を取ることになったのだった。


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