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ハルノヒザシ

「できた!できたー!!!」
その日の夜。俺はベッドに腰掛けながら一人歓声を上げた。三好はちょうど良いタイミングでシャワーを浴びに行っている。
(もう、ちょっと早く完成させたかったけど…)
あんまり大っぴらに作るのもあれなので、三好が寝てたり、不在だったり、上のベッドに上がった時にコツコツ作っていたので少々完成が遅れてしまった。本当はクリスマスにでもと思っていたけど、初雪も降ったしあんまり意識しても変だし今日でいいだろう。
最後に広げて点検していると、三好が戻ってくる足音がするので、なんとなく後ろに隠しておく。
三好が着替えて髪を乾かしている間、なんとなくそわそわしながら俺はタイミングを見計らった。
三好が落ち着いた様子で座ってコーヒーを飲み始めた時、俺はベッドから立ち上がる。
「ねぇ三好」
「なに?」
三好がコーヒーカップを置いて、俺を見上げる。
「あのさ、これ」
俺はそう言って、ワインレッド色の手編みのマフラーを差し出した。
三好が俺の手元を見て目を丸くする。気に入ってもらえるだろうか。ああ、ドキドキする。
「え?俺に?前田が作ったの?」
「うん」
三好がおそるおそるといったように、俺の手からマフラーを受け取った。確かめる様に触ったり、広げたりした後、俺に視線を戻す。
「いいの?」
「うん。あ、あのね。これ俺の趣味だから、俺こういうの作るの好きだから。昔からよく自分が作るの楽しくて作っては夏とかにあげてたんだ。だから、もらってもらえると嬉しいんだ。雪も降って来たし」
三好が思ったよりびっくりしているようなので、俺は聞かれてもない言い訳を始める。うん、そうなんだ。夏や喜介や家庭科部の女の子達にも作ってたもん。だから三好にも作りたかっただけで。深い意味とかは…。
「ありがとう。すげー嬉しいよ。大事にする」
三好がにっこり笑った。俺は、ぶわーっと胸がなにかで一杯になる。ああ、喜んでもらえた。ああ、嬉しい。
「これってこんな感じに巻けばいいのかな」
「そうそう。後こんな感じにしたりしてもいいみたい」
三好がさっそく巻いてくれたので、俺はあれやこれやと巻き方を試してみた。作成者の俺が言うのも何だが、やっぱり赤系の色にして良かった。青とすごく迷ったけど、ワインレッドもとても三好には良く似合う。青はまた来年作ろうっと。
「すごいな。これ。よくこんな綺麗に編めるな」
「誤魔化すのが上手になってるだけだったりするんだけどね」
「それが上級者ってことなんだろ。ああ、すっげー嬉しい。ありがとう…」
三好が首に巻いたマフラーで少し顔を隠しながら、もう一度言った。その仕草に、また心がぎゅっとする。
「俺も、喜んでもらえてすっごく嬉しいよ。ちょっと早いけどクリスマスプレゼントってことで」
「うん…。ありがとう。使うの楽しみだ…」
よかった、と俺もココアでも飲もうと台所に行ってマグカップを取りに行く。ココアを作って後ろを振り返れば、マフラーを巻いたまま三好がコーヒーを飲んでいた。俺はくすりと笑う。
(慶美さんのカーディガン編んだら、次は三好のセーター編もうかな)
三好は細身のシルエットが似合いそうだからサイズ計らせてもらって…。ああ、何色がいいかなあ。毛糸選びに行かなくちゃ!
喜んでもらえた幸せと、これからの楽しみが増えた幸せがココアの甘さと共に身体中に満ちて行く。


そんな、初雪が降った日。


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