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ハルノヒザシ

「70−、71−、72−、ほら前田走れーっ」
「ちょ、俺もう無理。ほんと、無理!」
その日の三、四限は体育で。校庭が使えないため、体育館で各自好きなことをやることになった。俺は雪が降ればスキーでもするのかと思ってたが、冬の間は体育館を使うらしい。
俺と三好は、俺がどうにか三好の相手になるバトミントンをすることにして。
1,2限とゆっくり寝て、すっかり元気になった三好に、俺はしごかれていた。
ネットも無いので100回ぐらいは続くだろうと、体育教師が目標100回と言い渡して。
出来ないペアは体育館の内周を10周させるというので、俺は必死になってシャトルを追いかけまわしていた。
既に何回か挑戦しているが、なかなか達成できず。俺はもうバテバテなのだが、三好は涼しい顔して時々俺を左右に走らせてくるので、正直もう泣きそう。
かと言ってさらに内周走るのはごめん被るので、俺はどうにかラケットを降り続ける。
「86−、87−、88−。もうちょっとー!」
もう声も出ない俺は、数えるのはすっかり三好に任せきりで。よれよれ打ち返しては、三好に拾ってもらうラリーを繰り返した。
「99、100、101−、はい、おつかれー」
待ってましたとばかりに、体育館の隅で大の字に床に倒れこむと、三好が余裕の表情のままラッケトを軽く回してシャトルを上手にキャッチしてから、俺に歩み寄ってくる。
「はあ、はあっ、はあっ。っつ、ごほっ」
「ははは、大丈夫かー。顔真っ赤」
どうして、三好はそんな余裕なの!よくも走らせたなと恨み事の一つでも言いたいが、暑いし、疲れたし、息切れして苦しいしむせるし、汗は目に入るしで、それどころじゃない俺はとりあえず、三好が持ってきて俺に被せた自分のジャージからハンカチを取り出して顔を拭った。三好がのびてる俺の横に腰を降ろす。なんで三好はジャージ着たままなのに、あんな動いた後で涼し気な顔を崩さないんだろうか。
「はい、じゃあ休んだら次は150回目指すか」
「俺、もー無理。もー動けない」
だから俺はここから一歩も動きません!と三好を見上げると、ちょうど俺を見下ろしている三好と目があった。下から見ても整った顔で、三好がふっと笑う。その表情が文句なしにかっこよくて。俺は慌てて目を逸らした。う、わ、もう一度顔が赤くなりそう。俺は身体を横向きにして、自分のジャージをかぶって自分の顔を隠す。
「なんだよーやろうぜー」
そんな俺に笑い交じりの三好の声が降ってきて。ついでにジャージを引っ張られるので、俺はぎゅっとジャージを抑えて抵抗する。
「いやだ!他の人とやって下さい!俺はここで見てる!」
「体重増やすには筋肉付けた方がいいと思うんだよなー」
ああ、三好は夏の例の体重発言のせいで今日はやたら走らされたのか。道理で三好にしてはスパルタだと思った、と俺はようやく合点が行った。流石は夏。居なくても俺に厳しい。お前のせいで俺は今軽いピンチだ。
「じゃあ、腹筋だけでもいいから。足押さえといてやるから」
じゃあ、100回な、と有無を言わせず三好に向かい合わせになるように両足を取られ、引き寄せられた。俺はやだやだ、とジャージを被ったまま最後の抵抗をする。だがすぐに、ジャージも取られてしまった。
「ほらほら、起きろ」
がっちり俺の足を抑えつけたまま、三好が揶揄うように言う。やらないと放してもらえそうにないので、俺はしぶしぶ身体を起こした。30回くらい過ぎると、あっという間にきつくなってくる。
「はい、50、51…」
「んっ、ううっ…もう無理だよう…はなしてよう…」
「ははは、はい52−。53−」
なんだか妙に上機嫌な三好には、俺の泣き落としも通じなくて。ひいひい言いながら70回まで数えた時、ようやく集合の笛が鳴って、俺は解放された。うう、なんかお腹がくがくする…。お腹を擦りながら歩いていると、隣の三好がまたはははと笑う。
「まだ筋肉痛には早いんじゃないか」
「言っとくけどね、俺が筋トレにはまったらご飯ササミと大豆だらけにするからね」
夏にタンパク質取りたいと頼まれた時の経験から得た知識を使いながらやり返すと、「いいね。ホッケとアジも入れといてくれ」と余裕の三好。
(ふっ、まあ、いいさ。次はお昼だ…)
ひよこさん弁当に驚くがいい!ははは!
三好の弁当をひよこにした罰が当たったのか。それとも、すぐに逆襲する良いタイミングだったのか

整列して、前に並ぶ三好の背を見ながら、俺はそんな邪まな考えを抱いていた。


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あきゅろす。
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