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ハルノヒザシ

「兄貴!何してんの。こんなとこで。今何時だと思ってんの!」
「あの…、頂き物したから、食べてほしくて、お裾分けしに部屋行ったら、お前いなかったから。探しに来た…」
まくしたてるように言う夏に小さくなりながら、おどおどと俺は答える。
「そりゃ、ありがとう。別にいつものように部屋置いといてくれれば済んだのに。早乙女もう居ただろ」
「居たよ…」

「とにかく、もう道場閉めるから。出て。俺、風呂にも入りたいし…。もう遅いから帰って」
そう言って俺に背を向けて帰り支度を始める夏。取り付く島もない夏の態度に、昨日のことで夏を怒らせてしまったんだろうか、と不安になった俺は、その場に立ち尽くしていた。
「何なの?何か用なの?」
ただ立ち尽くす俺をうっとおしそうに睨む夏。棘のある態度に、俺のさっきまでの決心は崩れ去りそうだったが、俺はどうにか口を開く。
「あ、の、さ…、昨日のことなんだけど…」
「説教なら聞かないよ」
ぷい、と夏は俺から視線を外してしまう。
「夏が藤堂君、助けてくれたこと…、すごく、感謝してる。で、でも…あそこまで、する必要…なかったんじゃない、かな」
おずおずと俺が言うと、夏はキッと俺を見た。ちょうど照明の真下に立って、俺を真正面から見据える。
「あそこまで、って。兄貴を傷つけようとした奴に俺が怒るのは当然だろう。もう二度とふざけた真似ができないようにしてやったんだよ。むしろ感謝してほしいね。あれぐらいで済んだんだから」
吐き捨てるような夏の言葉は冷たさと憎しみが入り混じっていた。
明らかに怒っている夏に、俺は当然気圧されてしまうが、必死で言い返す。
「あれ、くらいって。藤堂君肺に肋骨が刺さってたんだよ…他にも…」
「命があるんだ。それくらい安いもんだろう」
「ちゃんと、話あえば、きっとわかってくれたんじゃないかな…」
俺の言葉に夏は思い切り舌打ちをした。ふん、とバカにしたように鼻を鳴らす。
「話し合えばってね。アイツが改心するまでにどれくらいかかる?それまで監視すんの?断言するけどさ、アイツあのまま無傷で返したら、絶対今日にでも飛び降りたぜ」
言葉じゃわからねぇバカもいんだよ。兄貴にはわからないだろうけどさ、と夏は冷たく言い放った。
「俺にはそんな時間はないね。物わかりのわるいバカの為に対話で時間を使うなんてまっぴらごめんだ。もっと他の時間を使いたいこと、沢山あるから。関わってらんねーよ」
「そんなこと…、夏にわかる、の…?」
「綺麗事じゃ世界は回らないんだ。そこら辺は十分見極めているつもりだよ」
そう思わない。ねぇ?と夏は俺に同意を求めた。俺は首を横にも縦にも振れない。
「俺は、夏にこんなことするのやめてほしい。あの時もそう言ったじゃないか…。ねぇ、夏…お願い。もう二度と人を傷つけるのは、やめて…くれ…」
「却下だっ!!」
夏は怒鳴った。その衝撃波が伝わってくるような大きな鋭い声で。
余りの迫力に、ひ、と俺は身体を縮こませる。
「俺は後悔したくないんだ。あの時俺に力があれば、なんて二度と!何もしなかった過去、起きてしまった過去は二度と変えられないって知っているから。紙一重で取り返しが付かなくなることわかっているから。俺の大事な兄貴を守れるのは、その時のたった一回だから。嘆いて反省したって遅い!絶対に後悔はする訳にはいかないっ!
「夏…、夏…、俺も気を付けるから…、だから…」
「兄貴はほんとバカだね。それで済んだことがあった?世界は兄貴だけでできている訳じゃないのに。例えば兄貴を閉じ込めたとするね。でも可能性はあるよ。俺は自分がやられそうになっても、絶対にやり返すから。兄貴の元に無事で帰れるなら。全てなんていらねぇんだ。俺には。兄貴だけ。兄貴だけなんだ!他の奴は心の底からどうでもいい!」
ねぇ、何回言わせるつもり?俺だって以前も言ったよね。忘れちゃった?と夏は呆れたように付け加えた。俺は、鼻をすする。口を開くと涙声が出た。それでも言う。
「俺の…気持ちは…どうでもいいの?」
俺の言葉に、夏が盛大に溜息をついた。
つい、と夏が視線を上げる。


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