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ハルノヒザシ

「うわ、すごいね。これ」
「じーさん。釣りでも行ったんかな?」
次の日の土曜日。
俺と三好は、部屋で二人、三好の実家から送られてきたクール宅急便の中身に絶句していた。
中には色とりどりの魚、魚、魚。
はまちにはぎに、たいに、さば、ああ、これはかさごかな?うわ、牡蠣まで。
どの魚も、採れたてのぴちぴちで。うわー美味しそう!
なんとかしてくれ、の三好の声に、俺はさっそくエプロンをしめた。
「三好なんか食べ方のリクエストある?」
「俺、魚どれがどれだかわからないから、任せる」
じゃあ、このハマチから行こうかな。ああ、この大きさだとブリなのかな?よくそこらへんはわからないけど。
久々にシャープナーを引っ張り出し、包丁を研いでから、俺はひと際大きなハマチを引っ張り出した。まな板にのせると、思いきりまな板からはみ出している。
まずはお刺身でしょ。照り焼き、カルパッチョ、煮つけ、頭はあら汁作って…。
俺はハマチ大好きなので、そんなことを考えながら、三枚に下ろしていると、三好がほほお、と横から感心した声を上げる。
「すげぇな前田。板前さんって感じだ」
「三好もすぐ出来るようになるよ。サバからやってみる?」
「ん…、目が、怖い…」
「はは、夏も同じこと言ってたよ」
がん、とまな板に包丁を叩きつけるようにしながら、俺が頭を落としていると、ひえ、と三好がびっくりした声を出す。んー兜焼きはやめといたほうが良さそうだな。俺や喜介はアラとかも好きなんだけど、夏はどうも見た目が嫌なのか尻込みしてたから。
サバは今日中に食べて、明日は魚介鍋にして、他の魚は今日切身にして冷凍しちゃおう。
こんだけあれば一週間はおかずには困らない。
さて、他の魚は何にしようかな、と俺が内心舌舐めずりをしながら、はまちと取っ組み合っていると、後ろでは三好の携帯が鳴っていた。出た三好が「届いたよ」と言っているところを聞くと、実家からの連絡みたいだ。
三好が帰省した時になにか話したらしく、三好の実家からは度々大量の物資が届いて。俺は毎回非常に助かってしょうがない。
「ははは、爺さんに付き合わされた訳ね。うん。うん。前田が捌いてくれてる。俺がどうにか出来る訳ないだろう。うるせーな。ははは。ありがとう。助かった。ああ、いいよ。代わっても。よう、久しぶり…」
聞こえてくる三好の会話。俺と話すときとは違う調子で。知らない三好を知れるようで。俺は盗み聞きだなとは思いつつ、聞いているのが好きだ。三好と居る時の幸せの一つ。
「……うん。…うん。大丈夫だよ。…爺さんも身体には気を付けて。うん。また…」
最後にお爺さんと会話して、終る三好の通話。
電話を終えた三好が、もう一度俺の横に戻ってくる。
「なあ、前田。やっぱり俺魚捌くのやってみようかな。遠藤の奴が俺には一生無理だってバカにしやがる」
「ははは。すぐできるようになるよ。じゃあ次はサバ捌いてみようか」
それ、洒落?と三好が大真面目な顔で言うので、俺はハマチの腹骨をすきながら、盛大に吹き出した。

(ああ…)
いつもの日常は、去った時と同じぐらいあっという間に戻ってきて。
明日は?明後日は?明々後日は…?わからないけど。
だからこそ、愛しいのだということを俺は知る。
「ねぇご飯炊く?」
「うん。お願い」
2週間ぶりの彼の言葉に、俺はこっくりと 頷いた。



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あきゅろす。
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