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ハルノヒザシ

俺が三好の手を離した瞬間。
もう一度、三好が俺の手を掴んだ。
強い力でに握りしめられる。
そのまま逃げるように立ち去ろうとしていた俺は、その手を振りほどこうとしたが、無理だった。
「は、離して、三好…」
「ねぇ、前田…」
顔を伏せていた三好が、俺を見る。
「俺だって思ってるよ。そんなこと…。前田とまた過ごせるって思ってるよ…」
三好も泣きそうだった。
「俺、ずっと前田といたかったよ。藤堂なんかほっとこうって、いや、俺がもう一度病院送りにして目の前から消してやろうと思ったよ」
この手で、と三好は俺の手を握りしめる。
「でも、俺、そんなことすれば、もう前田といられないと思って。もちろん…藤堂のことほっとけなかった。罪滅ぼししたかった。俺がもらった優しさを誰かに返したかった。それもあるけど…、一番は前田と一緒に居れる自分でこれからもありたかったから、その選択をしたんだよ」
これって不純だよね。結局藤堂じゃなくって自分のことを考えているから、と三好は絞り出すように言った。
「藤堂が居なくなってまた一緒に過ごせるって思ってるよ。でも、藤堂が居たら今日のことがあっても、これからもアイツと一緒にいたよ。俺は、きっと藤堂が変わってくれるって信じてたから。だって、前田は同じように俺を変えてくれたもの。その間、例え前田と過ごせる時間が減ったとしても、前田に変えてもらった俺だから…その幸せを知っている俺だから…」
三好はそこで、一度唇を閉じた。まるで次の言葉を躊躇するように。すっと息を吸って、決心したようにまた、唇を動かす。

「なあ。藤堂は言ってたね。俺のせいで、指も目も無くなったって。あれ嘘じゃないよ。俺が、早く止めに入ってたら、いつものことだとほっとかなったら。指も目も無くならなかったし、藤堂があんなになることもなかったんだから…。俺が手を下したんじゃなくても、俺は止められたのに、そのチャンスをみすみす逃した時点で俺のせいも同然だよ…と三好の声は掠れていく。
「藤堂は今日じゃなくて、あの日死んでもおかしくなかった。俺のせいで…。俺が選択を誤ったせいで。俺は前田にこのことだけは知られたくなかった。俺が過去にルームメイトを見捨てたこと。前田に、ひかれるのが何より怖かった。ねえ、前田。軽蔑した?あの日間違った俺は、もう存在しちゃいけない?偶然藤堂が生きてたからって、今償おうとするのは自己満足?_
「そんな…ことは…」
「前田…、土台無理な話なんだよ。全てを間違えないような選択をするなんて。こっちが正解でも、向こうから見たら間違っている、そんなことばっかりだ。俺だって、また間違えたくなくて必死だったよ。間違えたら前田の前に居られなくなる気がして。でも間違えた。藤堂は何も変わらなかった。ほっときゃ良かった…。逃げなきゃ良かった。でも、俺は一人しかいなくて…、時間の流れは一回きりで。前田も藤堂もどっちもなんて無理で…」」
「三好は俺とは、違う…、俺…何にもできなかった…何にもしなかった…」
「例えば…、俺があの日藤堂を見殺しにしてたら、俺が戻ってきた藤堂を病院送りにしていたら、俺が今日逃げ出さなかったら…。今日のことは起こらなかった。それでも、前田は全て俺のせいっていうかい?違うだろ…」
たまたまその場に居合わせたからって、全て自分のせいと思うのは、自分さえいなければ、なんて考えは間違ってるよ、と三好は言った。
俺は三好が、何を言おうとしてくれているのかわかった。俺を…君はいつも受け入れてくれる。
優しい三好。大好きな三好。でも…。だからこそ…。
「だめ…俺は今度こそ、そんなこと…できない」
君の傍にいたら、全てが許されてしまいそうだから…。卑怯者の俺にはそんなこと許されない。大好きな君とのうのうと過ごすなんて…。俺だけが…。

三好は、泣いた。ぼろぼろ、と涙が三好の頬を伝う。また、三好の手に力が籠った。
「だったら、だったら前田…。俺のためにいてよ。俺、きっと、前田が居ないここでの生活には、もう耐えられないから…俺に脅されたってことにしてよ…俺の我儘で構わないから」
自分のことしか考えてなくて、いつも肝心な時に役立たずで、人の不幸を喜んでしまった俺の為に。
三好は耐えられなくなったように、俺に抱きついた。肩に顔を埋める。しんと冷えた気温の中、彼の体温は暖かかった。溶かされた心の中が溢れてきてしまう。全部、全部。
「三好、俺、きっと、三好が考えているような人じゃない。不幸を喜んだだけじゃない。三好が、行っちゃった時、なんで俺じゃないんだろうって藤堂君が妬ましかったし、三好にも、うっ、三好はきっとちゃんとした考えがあるんだろう、ってわかってたのに、一方でひどいって思っちゃったし…。そう思うと、三好と過ごすの…うっ、ごめんなさい…」
でも…、俺だって。俺だって。本当は…。
「うん。ごめ、ん。ごめん…。前田。ちゃんと言わなかった俺が、悪い…。でも、なあ、俺とまた一緒にいてくれる?俺、また間違えてしまうかもしれないけど」
「…う、ぁ…、三好…。俺、三好と居たい…。俺、こんな、こんななのに…。居させて、ほしい…、また、居させて、下さい…」
大好きな君と一緒にいたい。君のため、じゃない。俺だって、同じくらい君といたい。
「前田がいいんだ。前田が居てくれるだけで、俺は幸せになれたから…」
すっかり涙なんか枯れたと思ったのに、ぼろぼろ涙が止まらなくて。俺も三好の肩に顔を埋めて泣いた。
間違っても、狡くても、弱くても、感情的になったとしても。
俺のままでいいんだ、って。
例え彼が
間違っても、弱くても、不器用でも。
俺がそのままの彼を求める気持ちになにも変わりがないように。

藤堂の見舞いに行こう、と涙声で言う彼に、俺は何度も何度も頷いた。



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あきゅろす。
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